他方、金融機関の貸出状況からは少し違った風景が見えてきます。日銀の統計資料を見てみると、大手行、地域金融機関、信用金庫の不動産業向け貸出は右肩上がりに伸びてきましたが、ここ数年は特にREIT(リート)向け貸出が急増しています。また、各不動産業者やファンド運用者へのヒアリングから聞こえてくるのは、近年新規不動産や太陽光発電施設等の建設物に対して、最大100%の貸し付けを行う金融機関が増えてきている事実です。開発業者、不動産やインフラ施設のオーナーの立場から見れば、多少稼働率が低くても、超高レバレッジによって高い収益率が見込めることになります。多少でも利回りの出る現物を保有し、金融機関からの借入れのチャンスがあれば、需要がなくても、資金を借りて建設しなければ損という状況になっています。
景気低迷が長引いた日本において、金融機関は日本国債をはじめ、有価証券投資から得られる収益を頼りにしてきました。マイナス金利下においては、有価証券投資からの利益に頼れず、本業の貸出を増やす必要に迫られています。しかし、日本の大手企業は一部の例外を除いて総じてカネ余りの状況にあり、本来資金需要があるべき中小企業でも、長く続いた金融機関の貸し渋りの影響や、低成長が常態化した中で、金融機関の収益へのインパクトが出るほどの資金需要が出てきていないようです。
政府は、金融緩和政策の行き詰まりから、財政刺激的な政策を取るべきタイミングに来ています。しかし、巨大な財政赤字が大規模な財政出動の余地を狭めています。したがって、金融機関による貸出増加という別の刺激策を講じることで、結果、民間による不動産、インフラ開発投資を進めることが出来ています。今後の懸念点は、金利が上昇した場合、最大100%まで上昇した借入の金利負担に民間の開発業者やオーナーが耐え切れなくなる状況です。この場合、インフレが起きても、政府は金利上昇による引締め政策を取れない可能性が高いと思われます。
つまり、このような状況を作り出した政府は、これまで以上に金利を上げられない状況にあります。足下、国債保有における日銀と海外投資家の割合が急増していく過程で、日本国内金利の変動率は高まることになりますが、日本政府、日銀に余力がある限りは、金利は容易には高騰しないと考えるべきかもしれません。このような人為的に作り出されたバブルのつけは将来に残ります。過剰な不動産開発から生じる空き家率の上昇と治安の悪化等は予見しやすい問題の一例です。足下の景気刺激とGDP成長率の向上を最重要課題とした場合、避けては通れないこれらの副作用ともいうべき問題に向かい合い、解決策を探っていく必要があると感じています。