したがって、まずは金融機関として、国債以外にも運用対象を広げていくことが課題になります。同時に、将来的な市場環境の変化に、新たな運用商品を加えた資産ポートフォリオが対応できるかを考える必要があります。これは、新たな運用対象を広げて運用収益を維持、増加しつつ金融機関が健全なバランスシートを保つために新たなリスク管理を行っていく必要性を示唆しています。日本銀行も、最近の金融機関毎の実情を踏まえつつ、モニタリングを通じてリスク管理の充実と健全なリスクテイクを促す、と言明しています。
では、地域金融機関が国債に変えて保有を進める運用対象は、どのようなアセットなのでしょうか。銀行や信用金庫などの金融機関が、生命保険会社、年金基金、あるいは個人などの他の投資家と異なる点は、運用資金の源泉、つまりバランスシートの負債側には日々出し入れの発生する個人の預金があることです。また、金融機関は様々な規制の下にあり、リターンが見込まれるという理由だけではリスク性の高い資産をある一定枠以上増やすことはできません。さらに、年度を通じての損益計算書上の損失を出すことは信用第一のビジネスとしては避けなければいけないことです。すべての企業は最終的な株主価値を損なわないために利益を出し続けることを求められていますが、公器としての銀行には、より厳しい目が向けられているというプレッシャーに晒されているためです。
つまり地域金融機関は、流動性が高く、リスク抑制型で、なおかつ比較的短期の期間損益にプラスをもたらしやすい投資対象という制約の中で、新しい運用対象を選定していく必要があるのです。投資対象は数多あれども、これらの要件をすべて満たすとなると大変です。真っ先に思いつくのは、先進国の国債です。しかし、日本に先駆けてマイナス金利に突入した欧州の国債は論外として、米国の金利も必ずしも高いとは言えず、しかも昨今の日本の金利状況も影響して為替ヘッジコストが高騰しています。結果として、為替リスクを負わずには利回りを享受できなくなってきています。金利関連の投資としては、アジアの一部や北欧の一部でようやく投資対象になりえるところがあるといったところでしょうか。
勿論、先進国の社債投資、バンクローン(銀行からの企業向け貸出債権)は、一定の流動性を備え、ある程度リスクも限定され比較的短期の期間損益を得られる投資対象です。さらに、REITや高配当株式なども流動性の観点からは比較的受け入れやすい投資対象です。加えて、ETFや上場インフラ投資法人の登場により、様々な資産に流動性が伴うようになったため投資候補は増加しているといえます。また、総資産の一定割合であれば、コモディティ、ヘッジファンド、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル等のオルタナティブ資産にも投資は可能です。日本国債が投資対象としての魅力度を失った現在、新たな運用商品への理解と、リスク管理手法の高度化は地域金融機関にとっての大きな課題となっています。私ども運用会社としても、この課題解決に対して、多少なりともお役に立てることがないかと、日々思考を続けています。