一方、別の大手証券会社である大和証券では小規模の営業所を増やし、支店、営業所をあわせた拠点数で野村証券を上回ったそうです。もっとも、出店する場所は駅前一等地に拘らず、また、事務機能を持たせない等、コストを抑える工夫を行い、これまでカバーしていなかった都心部以外の開拓によって顧客数を増やしているようです。大手証券の環境変化への対応もそれぞれと思われますが、証券会社全体では日本証券業協会の統計からみると2019年3月時点で店舗数が2133となっており、2009年からの10年で141店舗減少しています。
高度成長期から続いた日本の証券会社ビジネスが転換期にあることは明らかです。しかし、今後、どのような方向に向かっていくかを考えるのはそれほど簡単ではないように思います。国内の証券会社の平均的な収益構造を見ると、顧客の株式売買による委託手数料、投資信託など金融商品の販売から得られる募集取扱手数料、投資信託の預かり資産から得られる代行手数料やM&A等から得られる手数料等が中心となります。そのほかにも、債券や株式の引受手数料や有価証券売買益といった、従来のホールセールビジネスから得られる収益もありますが、近年減少傾向にあります。
伝統的な証券会社のビジネス構造の延長線上で、各社は現在いかに顧客からの預かり資産を増やし、安定的な手数料収入を得る「ストックビジネス」を増加させるかを課題として挙げているようです。特に、金融庁も力を入れている、「個人金融資産の貯蓄から投資へのシフト」を推し進め、個人を中心とする投資家が長期運用を行う環境を前提としたビジネスモデルへのシフトは、従来の株式や投資信託の回転売買を促し、手数料を稼ぐビジネスモデルの投資家へのデメリットが明確になっている状況では不可逆的な流れといえると思います。しかし、従来に比べて手数料率の低い当該ビジネスへの転換では、これまでのコスト構造を維持できません。
金融先進国の米国においても従来の株式売買から得られるブローカレッジ収入が減少していますが、ラップ取引等の投資一任勘定の残高が増加し、運用による手数料収入が堅調です。また、近年はM&Aビジネスの増加が証券会社の収益を支えている側面もあるようです。一方、日本全体でも最大の社会問題でもある少子高齢化と高齢者への金融資産の集中という現象は、日本の証券会社のビジネスモデルに大きな影響を与えています。しかし、いまでも国内証券会社が顧客から預かる金融資産の規模は大きく、トップの野村証券では、2019年3月時点で約115兆円(同社ホームページより)、トップ10社をあわせれば、約370兆円を超える顧客の金融資産を預かっています。
このような状況と、長引く低金利、株式売買回転率の低下などからトレーディング収益の低下が免れない環境をあわせて考えれば、証券会社は多額の顧客預かり資産を背景に、「投資運用業務」へのシフトを進めるのがひとつのソリューションと思われます。現状、取扱い投資信託の残高を増加させることで、資産運用ビジネスの収入を増加させるとしている証券会社が大半ですが、今後は、自社による資産運用スキルの向上や運用の差別化による運用資産残高の増加と手数料率の向上を目指していく会社が増えることも予想されます。
また、高齢化の結果として生じる、事業承継や相続といった事象に関連するビジネスの増加も想定されます。いずれのケースでも、証券会社としてはなるべく資産規模の大きな顧客を獲得し、取引顧客数を抑えることで固定費の抑制、利益の獲得を目指すことになります。このような変化が、冒頭の野村証券の店舗削減の背景にあると思われます。このコラムでも何度も取り上げている、地域金融機関のオーバーバンキング問題と同様、首都圏を中心に数多く存在する証券会社も、環境変化に対応し変化していく必要に迫られていると思われます。