ETFの残高がヘッジファンド運用残高に並んだという記事を見ました。もっとも、ETFの定義ははっきりしており、投資対象も網羅が可能ですが、ヘッジファンド運用の定義が難しいことを考えれば、正確な比較はできないかもしれません。また、ヘッジファンド運用の中には、活発にETFを取引しているところもありますので、ETFとヘッジファンドを並べて対比することはあまり意味がないかもしれません。しかし、ETF業界が活況であることは確かです。個人投資家、機関投資家、運用会社もコストをかけずにインデックスや個別の投資対象に投資を出来る金融ツールを活用するのは自然なことと思われます。
ETFが取り扱う金融商品のラインアップは増え続けており、債券インデックス、株式インデックスのみならず、商品やREIT、更にレバレッジをかけたものや、アクティブ運用の上場投信も提供されはじめています。投資家は様々なチョイスを出来るようになり、便利な側面もあります。しかし、投資家のチョイスが増えた結果、投資対象の入れ替えが増えることは必ずしも投資家のためになるとは限りません。
株式投資では、理論上、インデックス対比で勝てる投資家と負ける投資家は同数存在(もしくは勝者の収益と敗者の損失が均衡)する、ゼロサムゲームが想定されます。しかし、実際には、金融商品を提供する販売会社、運用会社、資産管理会社、商品を組成する際の法務費用、年度毎の監査費用等が付加されていることから、株式投資家がインデックスに勝つ勝率は低下することになります。更に、投資対象の入れ替えタイミングは、一般的に投資家にとって好意的には働かず、多くの場合運用成績を下げる方向に働くことがあります。例えば、多くの投資家は株式市場の上昇局面で買い始め、下落局面で売り始めるため、最終的なリターンが市場インデックスを下回る傾向にあります。
このような金融市場の特性を考えれば、常に勝ち続けるヘッジファンドに代表されるプロ投資家と、常に負け続けるそれ以外の投資家がいることはありそうなことかもしれません。しかし、集計可能なヘッジファンドの過去の運用成績を見る限り、そのような想像は多少なりとも過大評価されている側面もあります。長年、ヘッジファンドの調査を続け、投資を行ってきた実感からしても、5年を超えて高い成績を出し続けるヘッジファンドは、全体のユニバースの中でごく僅かです。10年を超えるものとなると、いくつかの金融危機を乗り越えたファンドということになりますので、更に少数になります。
現在のETFの品揃えが増えるような投資対象の多様化は、投資家が一つの事象に左右されにくい安定的な資産形成を行う上で有用です。コストを抑えて様々な投資対象に投資することが出来るような金融市場の発展も、投資家にとって、また、資金を調達する企業にとっても重要です。一方、ヘッジファンド等が切り拓く金融イノベーションのあるべき姿は、投資家の健全な資産形成の場と、成長を欲する企業のための資金調達の場が相互に秩序をもって発展することだと考えています。サブプライムローンや過度なレバレッジなど、過剰流動性を背景に、時には行き過ぎる傾向のある金融市場ですが、ゼロサムゲームの勝者は、市場や社会に資金を還元しつつ、金融のイノベーションをリードする存在であるべきだと思います。