プライベート・デットに投資を行うファンドの残高は順調に伸びており、グローバルでのデータを見ると、2018年には7690億ドル(約83兆円)の運用残高となっています。これは、金融危機前の2006年の1560億ドル(約17兆円)と比べて約5倍の規模となっています。各国の超低金利政策によって、債券からのリターンが低下する中、比較的高い金利を提供するプライベート・デットは機関投資家にとっても魅力的な資産クラスとして、この10年間高い注目を集めてきたことが分かります。
欧米では、プライベート・デットを未上場企業に対して提供するファンドの中に幾つかの種類が見られます。ひとつは、バイアウトファンドをはじめとするPEファンドが企業の株式へ投資を行う際、同じ企業に対して貸付を提供することに特化するファンドです。PEファンドは、規模の大きな案件を行うため、あるいは投資リターン向上を狙ってレバレッジド・バイアウトという手法を使い、企業買収時に投資額の50%前後(多いときには80%以上もあり得ますが)の借入を行います。通常、銀行をはじめとする金融機関がLBOローンという形で貸付を行うことが一般的ですが、金融危機以降のボルカー・ルールの適用や銀行のバランスシート圧縮の影響から、銀行がファンド関連の買収案件への貸付を絞ったタイミングで、プライベート・デットのファンドが急増しました。これらのファンドは、PEファンドと協働して投資を行うケースが多くあります。
一方、買収に関わりなく、中小企業が銀行以外からの融資を得ようとするケースも存在します。所謂、ダイレクト・レンディングといわれる形態です。金融危機以降、欧米でも中小企業が金融機関から資金を調達することが難しくなった時期に、それらの企業に対して、比較的高い利息で貸付を行うファンドが急増しました。また、企業に対してのみならず、個人のローンのニーズにも対応するダイレクト・レンディングが流行しました。10年の時をかけて、貸付を行うファンドにも、データやノウハウが蓄積し、現在ではプライベート・デットのファンドの存在感がますます大きくなってきています。同様に、不動産投資案件やインフラ投資案件に特化したデットファンドも成長しています。銀行をはじめとする金融機関の健全性が増し、融資余力が戻った現在でも、既に大規模化してノウハウを蓄えたプライベート・デット・ファンドの成長は止まっていません。
このように、欧米では大きく成長したプライベート・デット市場、及びファンドですが、日本に目を転じると、まだまだ未成熟な状況にあります。理由のひとつには、日本国内では2008年の金融危機時に震源地である欧米ほど銀行が傷つかなかったことが挙げられます。また、オーバーバンキングといわれ、メガバンク、準メガバンク、地銀、信金等、貸付機能を有する金融機関が国内に密集している日本では、買収時のLBOローンの貸手には事欠きません。また、かつては中小企業への事業性融資に消極的だった日本の金融機関は、過去10年以上の当局の指導もあり、これまでの担保主義から事業評価を行う融資を徐々に増やしてきました。結果として、プライベート・デット・ファンドが登場し成長する余地が限られていたと思われます。
しかし、国内PEファンドの成長スピード、規模も欧米に比べて見劣りはしているものの徐々に加速してきている昨今、共存関係にあるデットファンド業界の成長も今後見込めると考えています。また、日本においても今後、何らかの形でオーバーバンキングの解消が起こったり、クレジットサイクルの変化によって事業性融資に対する姿勢に変化が見られるかもしれません。金融市場の中のエコシステムを考えたとき、海外には存在し、日本には欠けているピースとしてのプライベート・デット・ファンドに今後も注目していきたいと考えています。