世界のエネルギー需要の増加や、中東地域や北海油田などを主な採掘源としている有限な地球上の化石燃料を考えれば、エネルギー価格は上昇を続けてもおかしくありません。しかし、実際には最近の原油価格は大幅に下落しています。なぜでしょうか。もっとも、原油価格をはじめとするコモディティ価格は、元々ランダムウォークしやすい性質を持っており、短期的な価格動向を理論的に説明することは困難です。ここでは、少し長期的な視野に立って、原油価格の行く末について考えてみたいと思います。
世界のエネルギー消費量は、経済成長とともに増加し、例えば原油の消費量は、過去50年で4倍に達しました。毎年2.5%以上の消費量増加です。今後も、アジア、オセアニア圏を中心に、需要は堅調に伸びると予想されており、今後25年間に原油換算のエネルギー消費量は、世界で30%-50%増に、アジアでは2倍超に増加する見通しです。特に、石油、石炭、ガス等の化石燃料と言われる燃料種類が過去のエネルギーの実に90%を占めていました。また、20年後の世界でも化石燃料の占める割合は、75―80%はあるものと試算されています。エネルギー資源、特に化石燃料の有限性を考えれば、今世紀後半にかけて100億人に達すると言われている世界中の人間の生活を賄う石油等の希少性は増すものと思われます。
私たち人間は、このように予測可能な将来の問題を放置するのではなく、何らかの対策を打ち続けています。原子力発電は、1951年の実験成功以降、安定電力提供源としてエネルギー源の一角を占めてきましたが、チェルノブイリや福島を経て、成長曲線は鈍化しています。一方、太陽光、風力などの再生可能エネルギーは、政策の後押しを主な理由として急成長をしてきました。その近年の急速な伸び率にも関わらず、多くの専門家は再生可能エネルギーのシェアは現在の原子力発電と同様に低位に留まると予想しているようです。それは、現在の再生可能エネルギーの大半を占める太陽光発電や風力発電が自然環境だよりで、安定電源と見なせないことも一因だと思われます。一方、地熱発電やバイオマス発電は、現在想定されている科学力、技術力では、限定的な供給になると考えられているからだと思われます。
シェール・ガスは、従来から有望視されていたエネルギーでしたが、近年の急速な普及は想定を超えたものでした。コストを抑えた採掘を可能とする技術開発がカギになっています。この他にも、蓄電池の改良や、太陽光パネルの改良などによる再生可能エネルギーにおける技術革新のスピードは、時として想像力の乏しい我々の想定を超えて進むことがあります。例えば、1954年の太陽光電池の黎明期に6%程度であったモジュール変換効率(太陽光パネルが摂取する太陽光を電力に変換する効率)は、現在の普及品で20%に達するものがあります。理論限界は85―90%と言われていますが、既に、変換効率70%のモジュールが製品化される予定だという噂も流れています。
このような技術革新によるエネルギー供給量の増加を織り込み、現在の原油価格が伸び悩んでいるという推測も可能です。特に、原油の備蓄を大量に保有し強いる中東諸国にとってみれば、将来的な原油価格の下落は資産の目減りにつながるため、将来的なエネルギー価格の下落を想定する場合、現在の備蓄を売却してキャッシュ化する方向に動いても不思議ではないかもしれません。エネルギー関連の技術革新を長期にわたって予測することは困難です。しかし、現在のエネルギー価格下落の背景に、産油国や投資家による、このような思惑も関わっているのではないか、と考えています。
これらの思惑を、だいぶ単純化して考えてみようと思います。現在、世界のエネルギー総供給に占める再生可能エネルギーの割合が15%弱と言われています。伸び率は非常に高く、今後も割合の増加が期待されます。今後30年間で50%のエネルギー供給量の増加を想定する一方、再生可能エネルギーの供給が年間5%の増加率を維持すると想定します。すると、30年後の世界では、エネルギー供給全体における再生可能エネルギーの占める割合が43%に達し、化石燃料の絶対供給量は現在と同水準となります。更に、技術革新が続き、再生可能エネルギーが年間8%の成長を遂げた場合、30年後には再生可能エネルギーだけで世界のエネルギー供給を賄える計算になります。繰り返しになりますが、将来の技術革新を予測することは困難です。また、歴史的に技術革新が長期間で継続することもありません。しかし、仮定の置き方によっては、前述のようなシナリオも考えられることも、現在の原油価格の形成の一因かもしれません。