本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。2015年が皆様にとって素晴らしい年になりますよう、心より祈願しております。
昨年を振り返ってみると、年初に危惧していた中国でのシャドーバンキング問題の顕在化は見られず、むしろ中国株式市場は大幅に上昇しました。また、過剰流動性供給によるインフレ率の上昇も見られず、日本では想定外の中央銀行による追加緩和によって、更なる円安の進行が見られました。米国では経済成長率こそ緩やかな回復にとどまっていましたが、雇用は着実に改善を続けています。
一方、1年前には様々なリスクシナリオが具現化するほどの過熱感は見られませんでしたが、2015年を迎えるに当たり、昨年には見られなかった様々な予兆が出始めているように思います。特に、国内においても、昨年末あたりから、不動産、未上場企業などの流動性の低い資産に対するファイナンス(貸出)が、過去の金融バブル崩壊前の水準に到達しつつあるように見えます。
例年のように、2015年のヘッジファンドを取り巻く投資環境について考えてみたいと思います。
(1) 信用(クレジット)市場は、2015年においては、最もリスクの高い市場になりつつあります。日、欧における超金融緩和政策の結果、日本国内の長期金利(10年債)が0.4%、ドイツ国債が0.6%となり、更なる金利低下余地は限界を迎えつつあります。さらに、クレジット・スプレッドも歴史的な低水準に近づきつつあり、前述のように非流動性資産に対するファイナンスが増大しています。ボルカー・ルールやドット・フランク、バーゼルIII規制によって、金融機関の健全性は担保されているように見えますが、過剰流動性資金の行き場がさらに絞られている結果、資産バブルも随所に見られ始めました。2015年中では、米国政策金利上昇が契機となって、クレジット市場のダウンサイクルの到来も近いとの見方から、資金の流入は限定的なものとなり、年間でのパフォーマンスは、0%と予想します。
(2) 商品市場では、エネルギー価格が昨年大幅に下落しました。原油価格は昨年6月以降の下げ幅が40%以上となり、特に新興産油国の経済を大幅に圧迫しました。しかし、主要中東産油国の生産政策の変更が見込まれない限り、2015年は、大幅な価格変動は見られない可能性があります。原油価格のレンジが45ドル~65ドルに落ち着き、商品市場も全体では5%程度の上昇で一年を終えるものと想定します。
(3) 2014年は、欧州金利の大幅低下と、米国金利の想定外の低下、及び日本での追加緩和を受けて、先進各国では長期金利が過去最低水準となりました。2015年は、米国における金融政策の健全化から、年央に短期金利が上昇する可能性が高まります。しかし、先進国におけるインフレーションの顕在化が見られず、日欧の中央銀行が利上げに踏み切れないことから、長期金利は引続き比較的低位に安定するものと思われます。イールドカーブについては、米国でのフラットニング(平坦化)の流れが継続するものと思われます。
(4) エマージング市場に関しては、エネルギー価格の変動性が落ちることで、比較的安定した状態になると考えています。中国市場は、もはやエマージング市場とは言えませんが、昨年同様、不動産バブル崩壊やシャドーバンキング問題の顕在化に海外投資家が一喜一憂する状況はあるものの、全体としては昨年の地合いを引き継ぎ、堅調な相場展開を想定しています。しかし、エネルギー価格への依存度の高い、ロシアや中東、南米などでの突然の金融危機の可能性も排除はできません。
(5) 市場ボラティリティの予想については、米国のハイイールド債のクレジット・スプレッドの拡大と連動する動きを見せると思われます。したがって、大きな上昇はないものの、昨年と比較すれば、上昇する状況が増えると考えています。特に、米国での利上げが開始されると思われる2015年6月前後からボラティリティの変動率が更に上昇し始めるものと想定します。
(6) 日本株式市場は、昨年に引続き、10%程度の安定上昇を続けるものと想定します。欧州と比較して不安要因が限られていることで、海外投資家からの資金流入の継続が続くことが想定されることから、良好な需給に支えられた安定パフォーマンスが期待されます。
(7) ヘッジファンド業界の再編と伝統的資産運用ビジネスとの融合は続いていくものと想定しています。スタートアップについても、継続的に見られますが、往年のヘッジファンドバブルを想起させるものではないと思われます。一部の大型化したヘッジファンドからのスピンアウト組が多くみられるのではないでしょうか。
1年前と比較すると、金融市場に徐々に緊張感が見られます。具体的には、レバレッジの上昇です。しかし、2015年も米国の政策金利上昇が契機となって、多少の調整は見られる可能性もありますが、先進国発の金融危機は想像しにくいと思われます。一方、エマージング市場での予想で述べたように、エネルギー産出国での突然の問題や、エネルギー関連企業のデフォルト等を契機とした市場変動率の上昇はリスクシナリオとしてやや高めに考えています。
本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。