私どもは、これまで、ファンド・オブ・ファンズの運用等を通じて、直接、間接的にヘッジファンドやプライベート・エクイティファンド、不動産、ディストレスト(不良債権)、エネルギーを中心としたインフラストラクチャ等の様々な投資分野への投資を行い、投資対象が常に多様化する現場を見てきました。ある時は、資産担保証券の一種であるCLOが大流行しましたし、また、クレジットデリバティブの商品組成にイノベーションを起こしたとも言えるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という商品が生まれ、それが瞬く間に運用者、投資家の間に浸透しました。不動産に関わる金融商品や、保険、保証に関わる金融商品の組成も日々起こっており、ある一定の流動性を持つに至った商品には、なんらかの形で投資家の資金が入り込んでいきます。国内で一般投資家が気軽に投資できる「公募投資信託」ですが、実は、上述の新しい金融商品を様々な形で取り込んでいます。
最近興味を持ってみているのは、投資信託の形態で提供される「バンクローン」ファンドの設定が増えていることです。「銀行による融資」を投資対象にすると聞いても、ピンと来ないかもしれません。目論見書には、利回りが高いという理由で、格付けの低い企業に対する融資に投資を行うという表記があります。米国では、銀行による融資は、「Loan Claim(貸付債権)」として、独立して取引されており、これを束ねたポートフォリオが上場されるなどして、流動性を伴った大きな市場となっています。米国では、記憶に新しい「サブプライムローン」という主に低所得者層向けの住宅ローンを担保にしたローン債権の証券化商品が一世を風靡しましたが、「バンクローン」の対象になるのは、中小企業の運転資金ニーズ等の融資です。
バンクローン投資のメリットとしては、低格付け企業へのローンが元になっていることから、利回りが比較的高いことや、貸付が変動金利で行われることが多いため、金利上昇に強いこと、また、融資の返済優先度は通常高いことから、投資元本の回収確率が比較的高いことなどがあげられています。しかし、そもそもが低格付けの企業に対する融資が元になっていますから、債務不履行(デフォルト)の確率は高いですし、一般的には他の有価証券に比べて流動性が低いというデメリットが存在します。また、現在、歴史的な水準からみても、企業の倒産確率が非常に低い状態ですので、投資タイミングとしては、必ずしも理想的な環境とは言えないかもしれません。また、投資対象を選定する運用会社の能力にも投資リターンが左右されやすいと思われます。
現在、世界的な低金利の煽りで、高利回りを維持できる金融商品に資金が集まる傾向があることと、金利の先高観から変動金利型の金融商品が選好されるという理由から、「バンクローン」ファンドの人気が出ているようです。また、「バンクローン」に限らず、多くの新しい金融商品が出てくる傾向にあります。数多くの機関投資家向けの金融商品を調査し、投資を行ってきた立場から見ても、最近個人向けの様々な金融商品が設定され、それ自体は素晴らしいことだと思っています。そして、個人投資家がこれらの金融商品を正しく理解し、投資に重要であるタイミングも含めて判断できる環境づくりに貢献できれば、と考えています。