今年も12月となり、残すところ後僅かになりました。次回のコラムでは今年の投資環境について振り返りたいと思いますが、今回は、昨今の日欧米で吹き荒れている各国政府と中央銀行による金融緩和の趨勢について少し考えて見たいと思います。本コラムでは、これまでも折に触れて、日本のデフレや低金利の常態化についてコメントをしてきました。結論としては、各国が成長戦略を描き、実行する目途が立つまでの間は、超緩和的な金融政策を採り続けるほか、中央銀行及び政府には道がないように見えるということです。
しかし、金融当局や中央銀行が具体的な成長戦略の策定と実行を行なうわけではないため、政府及び民間との連携が欠かせません。その点、米国が今回のFOMCでゼロ金利政策の継続時期を、失業率6.5%を達成するまで、という目標を定めたことは流石に現実的だと感じました。日本においては、ようやくインフレターゲット論が浸透し始め、日銀は物価上昇率1%を目標とした緩和政策を打出しています。しかし、政府、民間との連携を視野に入れるとすれば、より「分かりやすい」目標を定めることで効果が上がりやすいと思われます。
今年に入り、米連邦準備制度理事会(FRB)が、インフレターゲットを導入し、今回矢継ぎ早に、失業率を目標に加えることで、政策の「分かりやすさ」を醸し出しました。さらに、現在行なわれている超緩和政策の「出口」についても言及したことになり、金融政策の規律が存在することをアピールする意図もあったと思われます。その2点において、経済成長と物価安定を存在目的とする米国中央銀行の役割を果たそうと言う気概を感じることができます。
同時に、今回の措置から、米国の金融当局者が「財政の崖」による財政面での急激な引締めの可能性を、相当大きな危機感を持って見ていることも感じられます。一方、欧州においての危機意識も当然高いものがありそうです。ユーロ域内での複数政府の綱引きと言う複雑なプロセスを経ながら、欧州銀行同盟の法的枠組みの策定が進んでいます。また、規律を持った金融緩和の続行を行ないながら、少なくとも欧州北部における景気の改善が進んでいることは金融市場にとって好材料です。イタリアのマリオ・モンティ首相の辞任表明によって市場は一時動揺しましたが、ベルルスコーニ政権の復活を想定する向きは少なく、モンティ首相が進めた財政再建のトレンドは残ると見られています。そもそも基礎的財政収支がプラスであるイタリアでの財政再建は、米国や日本に比べて遥かに容易であると認識されています。
このような欧米での状況を見た後、日本の状況を見てみるとどうでしょうか。今回、自公政権の復活が既定路線となりつつあり、その総裁である安倍氏による「無制限の金融緩和」のコメントは、あまりにも大胆もしくは無責任に聞こえるにしても、政権を奪取した後に行なう一連の政策の中では必ず必要なツールになると思います。この際、日銀はどのように対応するのか。上述の欧米での状況を踏まえれば、政府と協調して分かりやすく大胆な金融緩和策を講じつつ、出口について釘を刺す、ということがメインシナリオと思われます。金融業界に身を置いている一員として、今後の中央銀行の対応を良く見極め、私達がその中でできる「経済成長」への貢献、すなわち多様な投資機会の創出と投資家の皆様への提供を続けたいと考えています。