投資戦略、あるいは運用者自身のキャパシティ(運用可能な許容範囲)です。さらに言えば、個々人の運用能力には何らかの制約、限界が存在し、ある一定額以上の資産規模の運用を行った場合、ほぼ例外なく、運用成績が劣化します。場合によって、運用資産規模が限界に達したのか、扱っている運用戦略が時流に合わなくなってきたのかは議論が分かれることもあります。しかし、同じ市場環境下で同様な投資戦略を展開するファンド間においても、運用資産残高の多寡によって成績に隔たりが見られることが往々にして起こります。多くの場合は運用資産残高の少ない運用者の成績が、大きい運用者の成績を上回ることになります。このような成績の差は何から生じ、運用者の適正な運用サイズはどのような条件によって決定されるのでしょうか。
最近の日本の例を見てみましょう。国内でヘッジファンドの運用者が本格的に活動を始めたのは2000年以降のことです。その後、紆余曲折を経ながらも業界は拡大し、2005年には1000億円を超える日本特化型ヘッジファンドの数も相当数現れました。しかし、2006年のライブドアショック以降、特に中小型株関連の戦略で苦戦を強いられたファンドが多くなり、2008年以降では、投資家の投資余力が低下しました。結果として、日本におけるファンド運用会社の平均の預り資産規模は低下することになりました。
当社が2005年以降に、純粋に日本戦略を行なうヘッジファンドへの投資を行った実績は累計で約35ファンドにのぼります。過去7年以上の間に、好不調の波もあり、時流にあった戦略を採用するファンドへの入替えを随時行なってきました。また、残念ながらパフォーマンスの要因や投資家からの解約を受けてクローズしてしまった運用会社もありました。現在、私達のポートフォリオに残っているファンド数は9ファンドですが、この数値は過去から大きくは変わっていません。均してみれば、運用成績はそれなりに出ていますが、投資対象ファンドの傾向を見てみると幾つかのことが分かります。
現存しているファンドの預り資産規模は、5年前のそれに比べると、約3分の1程度に減っています。これは、良いパフォーマンスを上げることのできる運用者を追求した結果、小型ファンドに行き着いた、という側面があります。また、残念ながら、日本の株式市場の退潮が著しいことから、海外投資家が日本戦略から撤退したことなども重なり、全体的にファンドサイズが縮小しました。また、その間、私ども観測によれば、同様の投資戦略を扱う場合には、一般的に小規模ファンドが大規模ファンドの成績を上回るケースが多いということも見られました。
この最後の点、つまりファンドのサイズが成績を左右するという現象は、日本市場に限らず、多くの市場で見られる現象といえます。環境、すなわち、投資対象市場の流動性や、競合の激しさが、大規模ファンドが苦戦する主な原因となりえます。勿論、常に例外は存在します。大型ファンドでも常に良好なパフォーマンスを計上し続けるファンド運用者の存在は、このようなサイズと成績の相関の普遍性を否定しえるものです。そのような例外的運用者が、どのような手法を使って生き残り、そして好調な成績を維持しえるのか。この理由に安定的なアルファの創出のヒントが隠されており、ファンド調査の醍醐味のひとつともいえます。