あいざわアセットマネジメント株式会社役職員ブログ

第159回 < 先進国の長期金利について思うこと >

5月18日に日本の10年国債金利が0.83%まで落込み、2003年以来の低水準を記録しました。ドル円も80円を割込み、日本のデフレ、低成長を象徴してきた低金利、円高の流れが再度勢いづいているように見えます。1990年に8%に及んだ国内10年国債金利が急速に低下を始め、1997年下旬に2%を割込む水準に落込んで以降、日本では、いわゆる超低金利の状態が15年近く続いています。一方、株価も日経平均が1989年12月末に39,000円台を目前にしてピークを付け、金利が2%を割込む1997年下旬には18,000円台を割込む水準となっています。それから約15年後の今日、金利も株価も15年前の半分以下の水準、つまり10年金利で0.83%、日経平均で8,600円台をつけています。

1997年には、アジア通貨危機が起こり、翌年1998年にはロシア危機、LTCM破綻後の金融危機が起きたことで世界的なリスク回避の流れが起こりました。その後グローバル経済が持ち直す中、日本の金利は2%を大きく上回ることはなく、株価も2007年に一時18,000円台を回復する瞬間はありましたが、長期に低迷しています。これが現在では日本以外の先進国にもあてはまる、低成長による株価の低迷、長期低金利状態の継続の状況です。少し乱暴な議論ですが、日本を先進国全般のモデルケースとして考えて見ましょう。

日本経済はバブル膨張と崩壊という極端な短期大型の景気サイクルを経験しました。そのきっかけとなった戦後復興によるブームの持続性やその後の人口動態により、1990年から2000年の間に日本は経済規模のピークを迎えました。その意味では、前述の株価や金利水準は、経済規模のピークアウトを先取りする形で動いたともいえます。その後の高齢化による労働人口の減少を労働生産性がカバーしきれず、また社会保障を始めとする様々な社会コスト上昇が重しになり、労働者の労働意欲も低下します。超低金利状態と期を同じくして日本は他の先進国に先駆けて深刻なデフレを経験しており、このデフレは企業、消費者の投資マインドや消費マインドを低下させてきました。

一般にデフレと高齢化による消費性向の低下は、いわゆる政府支出の乗数効果を押下げます。結果、財政支出の効果が限られることが政府の舵取りを更に難しくします。もっとも、現在のデフレ下では所得の伸びが小さく、あるいは、所得が減少しており、家計は貯蓄を削り、生活維持のための支出割合を増やすため消費性向自体は上昇しています。したがって、実際に乗数効果を押下げている要因は、企業における資金の滞留や債務返済(投資抑制)、輸入比率の上昇や、企業の海外進出による収益の移転等が考えられます。現在のような環境下では、国が公共投資を行って景気刺激策をとったとしても、受注を行なう企業で資金が滞留しやすくなります。結果、賃金を通じた所得増加にはつながらず、国の膨大な借金を賄うための資金源として活用される状況が考えられます。

原因は様々あるとしても、高齢化による社会保障コストが上昇する先進国では、多かれ少なかれ状況は同じと思われます。このような状況に陥ると、政府レベルでは成長率の上昇のみが負のスパイラルからの出口に見えます。したがって、政府は成長率上昇のために、金融(緩和)政策と前述のように効果が落ちるとは言っても財政支出の組合せを継続するしか手がないことになります。この行為は、借金が膨大に膨らんでいく過程では、砂漠に水を撒くことに似ているようにも思えます。本来は、土壌改善(乗数効果が高くなるような施策を打つ)をするべきと分かっていながら、日々の生活を維持するために水源が尽きる(財政破綻)まで水(カネ)を撒き続ける。

今週格下げのあった日本の財政の悪化状況についてはあらためてここで述べるまでもありません。欧州における財政悪化問題も人々の耳目を大いに集めています。また、大きな経常赤字を抱えつつ、今後社会保障コストの急増する米国においても昨年の国債格下げに見られるように財政の悪化は不可避です。これだけ問題が明らかであるにもかかわらず、解決の糸口が見当たらない中、ギリシャのような財政破綻をきっかけとする以外、先進各国は健全な長期金利の上昇が起こるための要件をクリアする成長戦略を描ききれるのか、また、実行は可能なのか。私達金融業界に身をおく者として、何が必要な対応なのか、非常に悩ましいながらも目前につきつけられた課題です。

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