もっとも、私の場合は100人以上の大学生向けの授業であることや、金融の中でも専門的な課題を扱っていることから、知識のシェア的な意味合いが多いため、工夫次第で十分に対応が可能と思っています。また、学校側は、オンライン授業の体制を急速に整備しつつあり、徐々にノウハウも蓄積しているようです。講師側としては、学校への移動時間を節約できることや、最近のビデオ会議の機能を活用したオンラインならではのメリットを感じる場面も少なくありません。
受講生の立場から見るとどうなのでしょうか。最近、新聞記事やインタビューなどで学生の声を聞くと、オンライン中心の授業であれば、高い学費を払ってまで大学に通う意味が感じられない、との声が聞かれます。費用対効果の面では、今後、オンラインを前提としたレベルの高い授業を用意できる学校への需要が高まるかもしれません。学校側としても、オンライン授業と対面授業のハイブリッド型が常態化すると思われる今後、どこまでの投資を行っていくかは悩ましいところと思われます。当然、講師側の理解と意識改革ができなければ、生徒側の満足度は高まらないと思われます。
しかし、学生の意見の中で、より大きく、深刻に感じられるのは、実際に学校へ行く機会が失われ、あるいは減ることで、友人を作る機会が得られずに学校生活を楽しめない、という声です。これまでの、当たり前の世界では学校生活を通じて、密度の濃い付き合いのなかで生涯の友人を作っていくことも多かったかもしれません。また、自分とは異なる様々なタイプの人々との交流を通じて、社会に出る前の予行練習を行っていたかもしれません。特に、幼少期から10代後半までの人格形成に最も影響のある時期には、できるだけ多くの経験を積み、多くの人々の接触を通じて人間関係を学んでいくことは重要ではないかと思います。
このように考えていくと、コロナ禍を契機に、学校は、教育の場として、オンライン授業とリアルの授業のハイブリッドを行いつつも、生徒達が人間関係を築き、学ぶことができるような機会をいかに提供し続けるかが求められることになるかと思います。子供たちは環境に対して、我々が想像している以上に柔軟に適応すると思います。テクノロジーの進化によって、バーチャルリアリティー(VR)による人々の交流は進み、例えばe-sportもますます活況になることと思います。100年後には、部活の大半がオンラインという状況もあり得るかもしれません。しかし、突然のコロナ禍によって推し進められた変化は、将来世代にわたっても影響の大きなものになることを十分に考えたうえで対応する必要があるのではないかと思います。オンライン授業、リアル授業、そのハイブリッド、という運営面のことばかりでなく、今後の社会活動の在り方に思いを馳せて、教育の場、職場について考えていきたいと思います。