今週、シンガポール、ロンドン、シカゴ、ニューヨークの出張から戻りました。前回のコラムでもお話したように、約30の運用者との面談が主な目的でした。当社が運用しているファンドから投資している先も多く、投資状況のフォローアップをすることができました。特に、2011年5月、6月はギリシャ債務の問題が色濃く金融市場に影響を与えていたために、各種金融商品価格が低迷するなど、相場環境としては難しかったこともあり、市場参加者がどのような考え方で取引を行っているかの全体像を捉える良い機会だったと思います。
出張時の6月末は、ギリシャが欧州中央銀行(ECB)等による支援を受け、同国の債務不履行を回避可能かどうかの瀬戸際にあり、29日、30日のギリシャ議会での財政緊縮策の可決とその関連法案の採決が焦点となっていました。結果、今回は当面のデフォルトを免れ、市場は反発することになりましたが、発表以前の運用各社の想定と準備、そして、ギリシャのデフォルト回避後のリアクションを見ることになりました。
各社と面談を終えた後の全体的な印象は、(1)株式市場を主戦場とする株式ロングショート戦略の運用者は、市場についてかなり強気に傾きつつある一方、(2)信用市場で取引を行う社債関連戦略や相対価値戦略の運用者は、運用成績の先行きについてかなり警戒感を高めてきているというところです。(3)為替についてはG3(ドル、ユーロ、円)の取引は方向感がつかめずにポジションを作りにくい中、北欧、アジア、資源国通貨を買って、その他を売るというポジションがコアのようでした。また、(4)コモディティ関連戦略については目先調整、中長期では強気というところが主流です。個別には、エマージング国資産(通貨、株式、債券)の買われ過ぎを懸念する声もあり、オプションによるヘッジを多用する様子も見られました。
以上の全体像を踏まえ、運用者の動向から、各市場の状況を確認したいと思います。まず、株式市場についてです。強気派の主な理由は企業業績の好調さと株価の乖離にあります。一言で言えば「割安銘柄が多数見られる」ということになります。5月以降株式市場が調整する中、企業業績の好調さに関わらず、相当の個別銘柄が価格調整した結果、米国株式市場を中心に割安感が高まっています。この背景にはギリシャ危機だけではなく、米国の景気指標が軒並み悪化してきたこと、また、中国関連株式バブルが会計不正問題で水を注されたことで一旦縮小したことも背景にあります。
ギリシャ問題が落ち着いたことや、米国景気指標の一部に明るさが見えたことで、企業業績に注目が集まり、株式市場が大幅に上昇したわけですが、これらの発表以前に、株式関連の運用者は徐々に買い持ち残高増やしていたことが伺えました。勿論、先行きについては不透明感が高いままですが、割安感はいまだに残っていそうです。例えば、商品価格と資源関連株式価格との相対価値を調査している運用者は、商品価格が割高で株式価格が割安である乖離が、過去最大に近いところまで広がっており、自律調整だけでも、資源株には相当上昇余地がある、とコメントしています。
対照的なのが社債関連市場です。一般的に、社債の利回りは信用格付けに応じ、国債などの安全債券の利回りに「スプレッド」を乗せて取引されます。2008年のリーマンショックは、まさに「金融危機」を引起したことで、信用取引市場は大きく混乱し、この「スプレッド」が大きく広がりました。そこには、大きな投資妙味が存在したため、多くの運用者、投資家が、2009年以降、この上乗せ金利を目当てに社債投資を行いました。結果として、「スプレッド」は低格付けの債券であっても過去の水準から見ても非常に小さくなっています。社債価格も上昇した銘柄も多く、投資妙味がだいぶ減退したアセットクラスと言えます。このように上値余地が限られた状況で、再び「金融危機」が起きた場合には運用戦略として、ダウンサイドが危ぶまれます。
ただし、前回の金融危機の教訓から、多くの投資家が「レバレッジ」をかけて、自らが持つ資金の何倍もの普通社債や転換社債、あるいはCDSのようなデリバティブ商品を保有しているケースは限定的であり、したがって、2008年のようなメルトダウン的なリスクは低いと思います。また、当面は企業の倒産確率は米国を中心に低いまま推移されることが想定されており、差し迫った危険はないようです。しかし、局所的ではありますが、高いリターンを求めてレバレッジを上げたり、流動性が低いために「スプレッド」が大きい商品に投資をするところも出てきており、「黄色信号」が灯りはじめたと言えるかもしれません。
次回のコラムでは、為替やコモディティ市場での取引を中心に行っている運用者との面談内容を中心にレポートしたいと思います。