経験のある投資家であれば、「人の行く裏に道あり花の山」という投資の格言を身に沁みて感じたことが一度や二度はあると思います。また、このような投資の格言は、行動金融学の観点からもしばしば検証されていることがあります。ヘッジファンドの運用戦略についても、市場を対象としている限り同じような格言が当てはまります。(以下、運用と投資の格言についての過去のコラムです)
たとえば、足元の収益が好調な投資戦略には往々にして投資家の資金が集中することで、投資機会が減少し、市場に何らかのイベントが起きた際には逆方向への動きが加速する傾向があります。その場合、周りを見ながら遅れて入った投資家の方が最も大きな損失を被ることになるのは当然ですし、実際にそのような状況は頻繁に観察されます。その逆を実行するのは難しく、難しいからこそ、上述の格言として残っているのかもしれません。
今回以降のコラムでは、現時点であまり大勢の投資家が見ていない、したがって「ユニーク」であり、継続的に安定したリターンが期待しやすい投資戦略について考察を加えてみたいと思います。しかし、現時点で「ユニーク」であることは、過去において「ポピュラー」であった戦略が何らかの問題を抱えて一旦投資家から見放されてしまっているケースや、実際に非常に「珍しい」運用戦略で、あまり多くの人が着目しにくい運用手法であるケースなどがあります。また、投資戦略の内容があまりにも複雑であるために、一般的な投資家の理解が得られないようなこともあります。いずれのケースでも一般的な投資家が手を出しにくい何らかの理由があることが大半な分、我々のような運用者にとっては調査する甲斐もあると思います。
今回、最初に取りあげるのは、前段の最初に述べたような、かつては「非常にポピュラー」な投資対象であった債券関連ファンドの中で、特に「サブプライム証券」や「資産(不動産)担保証券」等を幅広く扱う投資戦略です。2007年からのいわゆるサブプライムショックを乗り切ることができた背景には、徹底したリサーチとリスク管理が成し得るヘッジ戦略がありました。2007年に起きたサブプライム問題とそれに端を発したリーマンショックに至る過程については、記憶に新しいと思いますが、当時の状況を筆者なりに考察した一連のコラムを読み返してみると、サブプライムローンの存在そのものが問題だったのではなく、サブプライムローンを証券化し、小口化にして数多くの機関投資家に販売するという過程が問題だったことが分かります。
したがって、相応に利回りは高いものの、個別に質の高いサブプライムローンを選択して投資していれば、ある程度のリスクは抑えられていたことになります。また、ローン期間を短めなものに限定し、金利の動向を受けにくいポートフォリオを構築することも可能です。同戦略では、インデックスや社債をショートし、ヘッジ気味のポートフォリオを組成することで、結果的には2008年のリーマンショック以降の金融危機も乗り切り、2008年のパフォーマンスがプラスとなりました。そのうえで、同戦略では、2008年の金融危機後に大量に割安な証券化商品やローン自体が市場に出回ることになったため、2009年以降に向けて大きな収益機会を得ることができました。
しかし、金融危機以降、人々が「サブプライム」や「証券化商品」という言葉に持つ抵抗はいまだに相当のものがあります。そのため、金融危機から3年近くが過ぎようとしている現在でも、実際には質の高いローンや証券が他資産に比べて割安で放置されているケースが散見されます。このような状況を「投資機会」として捉えた投資戦略が投資家に対して「ユニーク」な収益機会を提供することがあります。もちろん、サブプライムやそれに類似するローンの証券化商品に内包されたリスクは金融危機以前と同様に残りますし、当時と比較して流動性も落ちているなど、気をつける必要がある点は多数あります。今後、米国の住宅価格がさらに急落し、景気が二番底を付けに行くというシナリオでは、よりヘッジ戦略に気を使う必要も出てきます。それらのリスクを十分に斟酌し、ヘッジを心がけたうえであれば、このようなユニークな投資戦略にはそれなりの収益機会が存在すると言えます。