ウイサル氏は16か月間の在任中、一時24%だった政策金利を8.25%まで引き下げていましたが、結果としてトルコリラが急落し、トルコ経済は低迷していました。アーバル氏は2015年から2018年に財務相を務めた人物であり、短い在任期間中、中銀としての役割を、物価の安定、維持と明確にし、透明性、説明責任を保ちながら、市場に信頼される政策運営をしていたようです。着任以来、物価安定を目標として、金利を引き上げていました。さらに、3月18日には政策金利を19%と大幅に引き上げ、トルコリラも底を打って上昇基調に転じるなど、市場から評価されていました。
今回の解任劇で、中央銀行の総裁は2年足らずで3人目となりました。金利引き上げ政策に不満を持ったエルドアン大統領の強権発動とみられていますが、トルコでは、同様の事態が繰り返し起きています。景気刺激策のために金利を引き下げると、インフレが加速し、市民の生活が圧迫されます。そのため、金利を引き上げて、インフレを抑制しようとすると、自国内の経済活動自体が失速するという循環に陥っているため、金利による政策運営だけではすぐに袋小路に入り込んでしまいます。
現状の、米国金利が上昇しやすい局面では、新興国通貨は対ドルで大幅に下落しやすくなります。2018年8月にも、米国長期金利の上昇傾向を嫌気して、トルコリラが対ドルで2割近く下落し、トルコショックといわれたトルコ通貨の危機的状況がありました。これは、トルコ等の新興国がドル建ての債務を多く保有する一方、自国債権は現地通貨建てであるため、ドル金利上昇と通貨ドルの上昇によって、ドル建て債務が膨張し、債務のみが増加する構造的な問題に起因しています。
さらに、このような状況は、以前のコラム第363回 < コロナ禍とMMT(現代貨幣理論)について【2】> | あいざわアセットマネジメント株式会社 (akebono-am.com)で述べたような、先進国、特に米国による無制限ともいえる「政府債務の貨幣化」が遠因となっているように思われます。前回のコラムの一部を以下に抜粋します。
「自国通貨を持っていたとしても、グローバル通貨を発行できない国の場合は、この手法では容易に自国のインフレーションを招いてしまう可能性があります。大多数の国では主権通貨を発行できず、自らは「政府債務の貨幣化」を行えないため、一部の国が行う金融緩和、財政支出に依存せざるを得ない状況となります。しかも、主権通貨の過剰な発行によって、資金がその他の国々に流れ込んでしまった場合、資金が流れ込んだ国々は物価のコントロールを失う可能性があり、経済に深刻なダメージを負うリスクが生じます。」
エルドアン大統領の独裁は、国際社会の規範に照らしてみれば、大いに問題があるように思えます。しかし、欧州とアジアの間にあり、貿易の拠点として経済的便益を得られやすいトルコが、ここまで経済政策運営に苦戦している背景には、米国をはじめとする先進国での金融政策が大きく影響していることがあることも、理解する必要があるように思われます。