あいざわアセットマネジメント株式会社役職員ブログ

夏休みの宿題とかけて、ケイマン諸島の新しいレギュレーションととく。その心は

私の住む浅草の8月、といえば、何故浅草で?とよく言われるサンバカーニバルですが、今年もオリピックの延期の都合で9月の最終土曜にスケジュールが移動した上に、オフィシャルサイトでの更新が見られないことから御多分に洩れず中止になりそうな雰囲気です。なかなか人の集まるイベントというのを開催するのが難しいご時世ではありますが、とはいえ、世の中のちょっとした違和感を含めて去年から39回目が足踏みしているこの浅草サンバカーニバル、元々は暑い夏に浅草に人を呼ぶ為の街おこしイベントだったことを覚えている人は少なくなったように思います。

知ってました?サンバカーニバルの始まりって

まだ私のところのお土産屋で食堂なんかもやっていたぴちぴちの20代の時分に、サンバカーニバルが終わった時間にふらっとうちの店に入って余韻に浸りながら、お酒にモツ煮をつまんでいたお客さん二人。一人はブラジル系の面持ちで、もう一人は、まぁ浅草に長く住む旦那衆の雰囲気たっぷりの御仁でしたが、話を聞いているとやっぱりそうで、昭和の終わり頃にモテたい(笑)なんて思っておしゃれにダンス教室に通っていたところでサンバに出会い、そのリズムがどうも三社祭の神輿を担ぐ掛け声のリズムに似てるなんて思ったから、ちょうどやっていた浅草の街おこしのアイデアに出してみたらこうなったんだよ、なんてことだったそうで、実際浅草だけでなく、国内のブラジルからの移民にゆかりのある街で、そして、縁やゆかりがなくてもサンバカーニバルが行われるようになって、年中あちこちを巡っては踊るなんて人まで生み出したきっかけにすらなった、と言ったら、他人の空似というか似たようなリズム、なのかもしれませんが、まぁ大したものです。

夏の終わりの風物詩。サンバの他にも。。。

とはいえ、例年ならば8月の最終土曜日の予定されるこのイベントには地元の小学校のブラスバンドチームがトップバッターで出るのがお約束ですので、夏の終わりの大観客の注目を浴びて演奏するべくプール教室の前後にずっと練習しているなんてのを随分前に聞きましたが、その目標もないとなると、ちゃんと夏休みの宿題をやるくらいしかない夏休みってのもどうなんでしょうね(笑)

今年の夏を熱くしたのはケイマン当局でした

さて、夏休みの宿題、と言えば実はケイマン諸島の組合運営をしている弊社というかファンドのコントローラーの私をはじめ(笑)、運営する誰にもはじめての夏休みの宿題が出されました。ケイマン諸島で昨年から施行された Private Fund Act – PFA で昨年の8月の頭には既存ファンドの登録に追われていましたが、ファンドの年次報告が昨年末の財務年度から義務付けられたことで、Fund Annual Return – FAR と呼ばれる財務諸表の監査結果と合わせてファンドの年次活動の報告をこの夏から行うこととなりました。

FAR、プライベート資産投資の人には馴染みのないものでしたが

さて、このFARですが、組合型ファンドを運営してきた人たちにとっては新しい手間でしかない法制度でしかないのですが、日本で言えば投資信託の投資対象となっていて、私も以前はたくさん設定・運営してきたユニットトラストのような契約型ファンドやヘッジファンドなどで利用されている Segregated Portfolio Company (略して SPC)のような会社型ファンドの設立・運営を行なってきた人たちにとっては、既に Mutual Fund Act と呼ばれるファンドの登録・認可制度があって、その制度のもとではファンドの設立の時には当然に監査人や現地のサービスプロバイダーの任命義務があったり、FARもほぼ同じ形で求められていました。そこから眺める風景としては、今まで規制のかかっていなかったファンド商品にやっとMFAと同じような法制度が導入されたか、と思えるでしょうし、実際私自身も、10年近く前に現地のlimited partnershipのアドミの受任の際にこの事実を知ったときに、あら、規制がない世界なんだ、楽でいいなぁ、なんて思ったのをふと思い出しました。

他人の空似、と言うより、今でいう、寄せに行っている、って奴?

事実、PFAの施行の際のケイマン金融当局の理由として説明されたのが、ケイマン諸島と同じような他のファンド設立国における、このスキームを用いた集団投資スキームに対する金融規制の状況に合わせるべく導入することとしたから、というものがありました。サンバのリズムを聞いて祭りのリズムと似ている、という逸話以上の類似性のある話だとは思いますが、とはいえ、ここで対象となっているケイマン諸島の Exempted Limited Partnership Act というのは、日本で同じような法制度だと言われている投資事業有限責任組合のような、株式等の保有を通じた企業育成等を目指す、という背景があるわけではなく、単純に、ケイマン諸島以外に拠点を有する関係者が、ケイマン諸島以外の国において、有価証券投資を含む、共同事業等を行うにあたって利用され(年次の登録費用をケイマン諸島政府に支払ってもらえ)ることを意図している組合のための法律に過ぎません。たまたま、そういう法律なので、会社の株式やファンドの持ち分などの金融商品への投資を共同で行うことに使いやすかっただけですので、資産の分別管理や倒産隔離、ファンド運営の観点で見て必要とされる監査などのガバナンスの機能といった、金融商品としてのデザインがなされていないのは、そういった背景が根っこに存在するからなのです。その意味で言えば、金融商品としては他人の空似なだけ、だったのです。

そのお陰で、他人の空似をそっくりさんにすべく、PFAで国内法で言う無限責任組合員に当たるgeneral partner の統制機能の強化としての複数名の取締役の任命、年一回の資産評価の義務と監査義務、資産の分別管理状態の報告、というものがファンドの設立時に金融当局に行われるとともに、その状態が維持されていることを示すべく、FARの作成と届出義務も始まってしまった、というわけなのです。

(一部の大人の)夏休みの宿題の内容とは

ちなみに、FARでの報告内容としては、まず、general partner の取締役の氏名に始まり、ファンドの関係者とその金融規制当局に関する情報(弊社の運営ファンドで言えば、日本の財務省関東財務局への金融商品取引業登録をしている弊社)、組合員の地域的属性とその組合持ち分の基準日時点の純資産、組合の資産と負債の明細、報告年度における費用と収益、特に費用の細かい内訳(特に弁護士費用などの専門家への支払いや管理事務業務への報酬など)といった具合です。もし、投資の際に中間投資ビークルを使ったり、投資家の地域に合わせたフィーダーファンドなどを作っていたら、その情報も合わせて報告することになっていますので大掛かりで複雑なことをすればするほど手間も増えていきそうです。

宿題の提出期限とその大人な事情

そんな夏休みの宿題ですが、今年は、初年度だったこともあり、当初は6月末まで、というアナウンスがあったのですが、今年の4月の時点になってもFARの報告様式の正式なものが公表されず、結果として9月末までに延期になりました。小学生の夏休みの宿題ではなく、大学生の長い夏休みの課題提出になってくれましたが、様式が発表されたのが7月9日。本来の届出期限より後になったのでした。当局はルールを変えられるから、締め切りを守れないってのがないんですよね。いいなぁ(おっと)

さて、もっと重要なこととして、法令上の締め切りは6月末ですので来年以降はきっと6月末になるでしょうけれども、ファンド投資をする組合の場合、投資先のファンドの監査が6月近くまでかかるケースがあることを踏まえると、監査をやりながら並行して FARの準備を行う必要があるので、夏休みの宿題以上のプレッシャーが担当者にのしかかることだけは確実です。

しかも、ケイマン当局は、結構この辺りの届出用のオンライン環境を立ち上げて走らせるのが苦手なようでして、個人的に悪名高きCRSのための報告用のポータルは立ち上がっては受付停止、というのが繰り返され、CRS用の年次報告のフォーマットも毎年改変が続き、ということで毎年毎年、前年度の実例が使えない、という現場の混乱を生み出しています。FARもリリース直後にフォーマットの変更が発生したりという感じですのでどうなることやら、と眺めて、出たところ勝負、とサンバを踊りながらその日を目一杯楽しむラテン気質で腹を括っていかないとやっていけないようにすら思えています。

と言うわけで、締め切りってFARだけでなく

なんて書いているこの記事だって、案件やら社内プロジェクトやら、近日公開するかもしれないイベントの話などをやりながらでしたので締め切りギリギリ。文章を書けないのは文才がないから、と諦めればいいものの、期限までに仕事をしたいと思う私は、50歳にして夏休みの自由研究をギリギリのスケジュールでこなせる小学生から強いハートを学ばないと、と思うのでしたとさ。

お後がよろしいようで。

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