ファンド側としては、投資家に約束していた期間内に、一部であっても理想的な投資回収ができない場合、幾つかの選択肢があります。【1】ファンドを清算することとして、既存投資家の運用管理手数料等を無料としたうえで投資対象の早期売却のみを目的として活動を継続する、【2】ファンドの期間内にセカンダリー市場で投資対象を売却して既存投資家に現金を分配する、【3】上述の「継続ファンド」を設立し、既存投資家の希望者と新規投資家を募ったうえで、既存ファンドの投資対象株式などを移管する、といった選択肢です。
この中で、特に米国では、継続ファンドを選択するファンド運用会社が増加しています。この方法にはいくつかのメリットが存在します。ファンド運用会社としては、膨大な時間とコストをかけて調査し、投資し、さらにその後の経営にまで関与してきた投資対象企業をファンド期間の満期が終了したからと言って途半ばで売却することは、苦渋の選択となります。したがって、自らが継続的に案件に関わることのできる継続ファンドの設定は、セカンダリー市場での売却と比較すると好ましい選択となります。継続ファンドに対して新規に資金を投じる投資家の観点からは、既にファンド運用会社が手塩にかけて育ててきた投資対象の投資回収前の最後の部分に投資をすることが可能になります。
一方、継続ファンドの設定にはいくつかの課題も存在します。投資対象の移管にあたって、ファンドの既存投資家と新規投資家の間に利益相反が存在します。かつ、この移管を進めるのは、これまで既存投資家の資金を活用して投資を行ってきたファンド運用会社になります。ファンド運用会社が売り手と買い手の双方の利益を代表して継続ファンドの設定を進めるため、既存投資家にとっては「高く売る」ことが重要で、新規投資家にとっては「安く買う」ことが重要な中、その利害の調整を、一番の当事者であるファンド運用会社が主導することは困難です。
したがって、継続ファンドの設定、運用を検討するファンド運用会社は、既存投資家、新規投資家、さらには自らがWin-Winの関係になり、利益相反を回避した取引を行う必要があり、その際、法務面、税務面、新規ファンド設定時の条件面、移管時の投資対象企業の評価額について、外部の第三者アドバイザーを採用するなどして取引を行うことになるため、かなり複雑なプロセス、仕組みが必要です。
私どもは、国内の運用会社としては数少ないと思われる、継続ファンドの設定、投資の経験を持っていますが、海外の事例を見ると、案件規模、関係者や条件が多様化している印象を受けます。近年、国内においてもファンド数の増加、大型化、多様化が進む中、セカンダリーの投資手法も変化するものと思われ、今後は継続ファンドを活用する事例も増えると考えています。引き続き、私どものセカンダリーファンドを通じて、様々な要望に対応しつつ良好なパフォーマンスをあげられるよう、継続ファンドの設定などの経験を積んでいきたいと考えています。