また、2020年、2021年に米国IPOの半分を占めたSPACで上場した銘柄群の価格も大きく下落しています。SPAC上場した銘柄で構成されるSPACインデックス(IPOX SPAC)を見てみると、2021年末から足下の下落率こそNASDAQの総合指数と大差ありませんが、ピークをつけた2021年2月からの約1年間をみると40%超の下落となっています。 SPACを中心に上場したハイテク企業、SaaS企業やヘルスケア企業などの売上成長の継続と当面の赤字継続が前提の会社の株価が、売上高倍率(PSR)数十倍で取引されているなど、従来の株価評価では正当化できないレベルで取引されていたと言われていました。金利上昇などで投資家心理が冷やされたことで、多少の調整はあっても、この10年間続いたように、ハイテク銘柄がけん引して、株式指数は力強くリバウンドするのでしょうか。 あるいは、今回の株価調整は2000年当時のITバブル崩壊から20年余りの時を経た再来の始まりなのでしょうか。
1999年代の後半にかけて米国では、ドットコムバブルの名の通り、IT関連ベンチャーが多く設立され、2000年までの間に株価が異常なまでに高騰しました。当時のNASDAQ総合指数は2000年3月10日をピークとして、その後、2000年下旬から2002年にかけて指数は4分の1程度まで急落していきました。その間、乱立したベンチャー企業の多くはアマゾン、グーグル、eBay等を残して姿を消していくこととなりました。 外形だけを眺めれば、今の相場と1999年から2000年にかけての相場には多くの類似点が見られます。2015年あたりからデジタルトランスフォーメーションやAIをテーマにしたベンチャー企業が乱立し、再生可能エネルギー、電気自動車の周辺分野でも多くの新興企業がスタートしています。一つのテーマの中で優勝劣敗が定かではないにもかかわらず、売上規模の小さい企業群の時価総額が数兆円規模にまで膨らんでおり、競争が激化する過程で生き残れない会社も出てくるものと思われます。ちょっとしたきっかけで市場全体が調整する可能性も十分にあるものと思われます。
しかし、米国でITバブル崩壊を経て、その時に生き残った企業群が経済成長をけん引することで、株価が力強く切り返したことから、今回も新しい分野のリーダー企業が次世代のアメリカの経済を、そして株式市場をけん引していく可能性も十分に考えられます。SPAC銘柄についても、個別企業の中には次世代のリーディングカンパニーが存在すると思われます。しかし、SPACという仕組みで上場したことから、通常のIPOに比べて、既存投資家による株式の売却圧力が相当に強いことが想定され、株式需給の悪さから、他の銘柄に比べて頭の重い展開が続くものと予想しています。SPAC銘柄が問題なのではなく、SPACという仕組みに内包されている問題が短期的に株価を押し下げる要因になっていると分析しており、ここでの問題がすなわち米国ハイテク銘柄全体の問題に直結しているわけではないことに注意が必要かもしれません。
主要各国によるMMT的な金融緩和政策によって、資本市場はかつてないほどのカネ余り状況となっています。物価上昇が継続する可能性は高く、主要各国は遅かれ早かれ金利引き上げに動くことになろうかと思います。中国の不良債権問題に人々が注目し始めてから何年もの時が経っていますが、こちらも恒大問題をはじめとして表面化しつつあります。世界経済をけん引する二つの大国の動きが世界の資本市場に大きな影響を与えることは十分に予測でき、近々、数年単位での市場の調整が起こることは十分に想定される時期にきたものと思っています。過去の経験も参考にしつつ、このような状況下でどのような行動をとるか、慎重に考えていきたいと思います。