前回レポート公表時からの市場環境変化としては、米国の金利上昇、ウクライナ情勢問題による地政学リスクの深刻化と物価上昇があげられます。本レポート内でも米国金利の上昇、ウクライナ情勢、及びそれに伴う市場リスクの高まりには触れられていますが、国内金融システムは概ね安定性を維持しているとの認識を示しています。しかし、本レポートの全文を前回レポートと比較すると、リスクに対する警戒の色合いが強く出ている印象を受けます。実際、本文中、「リスク」という言葉が出てくる回数が15%程度増加していることからもその様子が伺えます。
また、前回レポートに引き続き、コロナ後の中小企業の信用度合や、将来的なデフォルト率の上昇に対する懸念が示されていました。特に、これまで中小企業の手元資金を助けてきた、コロナ禍での実質無利子融資の利払い負担が2023年度から生じるため、将来的な信用リスクの高まり、デフォルト率の上昇に対しての警戒感が徐々に鮮明になっています。
投資ファンドなどのノンバンクが金融仲介活動に占めるプレゼンスの高まり、また、金融機関の有価証券ポートフォリオの投資ファンド等との重複が金融システムのリスクを増やしている側面について、前回レポート同様、本レポートでも取り上げられていました。しかし、前回レポート以上に踏み込んだ内容にまでは至っておらず、定点観測的な内容となっていました。
今回、筆者としてはグローバルでの物価上昇が日本の金融システムあるいは金融政策に与える影響について言及があるものと考えていました。しかし、想定に反して、物価上昇についての記載はほとんどみられませんでした。これは、国内でのCPI(消費者物価指数)が2021年の平均でマイナス0.2%、また、米国をはじめとする海外の物価が大きく上昇している2022年3月時点でも国内は前年同月比1.2%と、いまだに低位で推移していることで、足下データだけを見れば言及しにくいことからは理解できますが、潜在的には大きなリスクだと考えます。
現在、企業における仕入れ価格の上昇は顕著であり、国内企業が消費物価に価格転嫁できるかは未知数です。仮に企業が消費者物価に価格転嫁が出来ず、企業業績の悪化が鮮明になる場合は、欧米と異なり日本では賃金上昇に結びつかず、景気悪化リスクが顕在化するものと思われます。一方、国内企業の価格転嫁が鮮明になった場合は、消費者物価の上昇に結びつき、この場合は現在の低金利の維持が困難になる可能性が考えられます。いずれの状況も今後1年程度で明らかになってくるのではないかと思われ、次回、もしくはそのあとのレポートでどのように分析されるか、引き続きフォローしていきたいと考えています。