あいざわアセットマネジメント株式会社役職員ブログ

第427回 、428回統合版 < ドイツのファミリーオフィスについて >

昨年からドイツのファミリーオフィスなどの投資家や起業家の方々と話す機会が増えました。輸入車販売数の上位3社がフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMWで占められていることから分かるように、日本にとってドイツはヨーロッパ地域最大の貿易国ですので、それほど驚くことはないかもしれません。しかし、最近のドイツ投資家からの問い合わせ内容が日本のディープテック領域への関心であることは、これまでにない新しい動きのように感じます。

ドイツのファミリーオフィスについてお話しする前に、最近のドイツ経済について見てみようと思います。100年前から欧州最大のGDPの視点で経済規模を誇るドイツは2023年には円安の影響もあり、日本を抜いて米国、中国に次ぐ世界第3位の経済規模となっています。イメージ通り、自動車、商用車、電気工学、化学産業などの工業分野で世界1位に位置する業種を有するほか、IT、通信、ソフトウェア、保険等の産業でも米国に次ぐポジションを維持しています。

他国との関係を見てみると、輸出に関してはフランスを筆頭にEU域内が過半を占める一方、それ以外では、対米国、中国が圧倒的であり、日本に対する輸出は2022年時点で全体の1.3%と韓国を下回っていました。また、輸入に至っては中国依存が著しく、EU域内のどの国よりも多い割合となっていました。対外直接投資額を見てみると、欧州外では米国と中国が突出しており、日本に対する投資額はシンガポールと並んで中国の25-30%程度に過ぎない規模となっています。特に対外直接投資の分野については、自動車関連テクノロジー案件や化学品の分野などでは中国に対する大型投資が続いてきたようです。

このようにドイツ経済の数値を見ると、アジアにおいては中国との結びつきが圧倒的に多かったことが分かります。経済規模、市場の大きさを考えれば合理的な判断であったと思われますが、2022年以降変化がみられてきました。2022年2月から始まったウクライナ事変に端を発して、欧州はロシアとの貿易を制限することになりました。さらにドイツでは、ロシアでの状況を教訓として2023年には中国依存の解消を急ぐ方針を打ち出し、今後の中国への対外直接投資額は減少することが想定されます。

このような環境下、最近になってドイツの投資家が日本の投資対象に興味を持ち始めたことは、ジオポリティックスの影響と無縁というわけではなさそうです。話をしているドイツ人投資家の興味が、日本におけるディープテック領域にあるのも自国の産業との親和性を重視してのことだと理解できます。

あらためて、ドイツ、もしくはスイスの一部を含むドイツ語圏のファミリーオフィスの成り立ちを見てみたいと思います。19世紀から20世紀にかけての第二次産業革命時に、ドイツがヨーロッパの主要工業国へと変貌する中で、化学、電気、などの分野で生まれた多くの企業の創業家が見られます。さらに、19世紀後半に石油を使った内燃機関を自動車に適用したゴットリープ・ダイムラー、さらに、ルドルフ・ディーゼルによって発明されたディーゼル機関によって自動車産業で世界をリードするドイツには自動車関連産業が大きく育ち、それらの企業の創業家が巨額の富を手にすることになったようです。

20世紀初頭に隆盛を迎えた大型企業オーナー家は、事業を持つ傍ら、一族に資産を遺す手段としてファミリーオフィスを持つことになりました。また、数百万社あるといわれるドイツの家族経営企業の中の何割かは世代交代の時期に事業売却を行うことになります。この場合もオーナー家は多額の金融資産を相続することとなり、これらがドイツのファミリーオフィスの源流となっています。勿論、最近のベンチャー企業のIPOやストックオプション行使によって莫大な富を得たニューリッチ層も増えてはいるものの、相続資産をもとにしたファミリーオフィスが大勢を占める状況のようです。

このように、年々ファミリーオフィスの数が増えると同時に、良好な市場環境に後押しされ、金融資産、不動産を中心に保有するファミリーオフィスの資産残高も増加しており、その投資対象は多様な地域、資産クラスに広がりを見せています。例えば、大型のファミリーオフィスにおいては、伝統的な資産である有価証券や不動産に加え、ヘッジファンドやプライベートエクイティ、更には美術品、ヨット、自動車、宝石を保有しています。また、投資対象地域は、最大の金融市場である北米と、欧州域内から始まり、アジアを含め世界中に広がっています。

しかし、私どもに問い合わせが来ているドイツのファミリーオフィスは、巨大な成長市場であった中国には過去投資を行ってきた一方、過去数十年にわたり日本の金融資産や不動産を投資対象としていなかったとのことです。自動車をはじめ、化学、電気、鉄鋼の分野では、恒常的に日本を事業の対象として見ていたにもかかわらず、失われた30年の間に日本はドイツの投資家から対象外とされていたようです。それが、ここ数年の米中貿易摩擦や、中国経済の変調を受けて、アジアの中での投資対象として日本が浮かび上がってきました。

ドイツをはじめとする欧州投資家が日本の不動産を保有する際、その距離、特異性から海外大手不動産ファンドを経由しての投資が主になります。また、外資大手の投信会社やプライベート・エクイティファンドは日本への投資を増やしており、このような「外資」ファンドを通じての投資が一般的です。しかし、欧米で人気のある資産クラスであるベンチャーキャピタル(VC)では少し様子が異なるようです。日本の半導体技術やテクノロジー、ソフト、コンテンツの分野は世界でもある程度評価されているにもかかわらず、日本を中心に投資を行う外資VCは数えるほどしかありません。国内独立系のVCの数は年々増加し、足下では日本のスタートアップ市場が拡大して魅力も増している反面、海外投資家の目からは、極めてアクセスの悪い投資対象と映っているようです。

今回、私どもに問い合わせのあった複数のドイツのファミリーオフィスは、まずは日本のVC、スタートアップ業界の視察を行いたいとのことでした。今後、このような機会をとらえて日本の有望なベンチャーに対して海外資金が入り込みやすい環境を作っていきたいと考えています。

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