前回の金融危機からの回復時に必要とされた流動性供給の副作用が様々なところで具現化しています。例えば、従来の評価方法では正当化するのが難しくなりつつある、株価の高い時価評価額、持続可能とは言えない日本における超低金利政策の長期化、民間部門における金融機関をはじめとする不動産部門偏重の投融資、仮想通貨に代表される熱狂的投機対象の出現など、様々な市場リスク顕在化の予兆ともいうべき事柄が見られます。
世界各国の政情を見れば、中国、ロシアではそれぞれ習近平国家主席、プーチン大統領が長期独裁政権を築き上げています。一方、民主主義の先進国では、予測不能な米国トランプ大統領、長期政権の終わりに近づいているように見えるドイツのメルケル首相、森友学園問題に忙殺され正常な国会運営が出来ていない安倍首相など、安定しているとは言い難い状況です。いまのところ、政治不安が金融市場に混乱をもたらしてはいませんが、火種にはなり得るかもしれません。
米国の金融誌バロンズに最近取り上げられていた「一般投資家の購入額は天井で最も多くなり、底で最も少なくなる」という株式市場に関する格言があります。同誌では、今年2月の市場急落時の直前に米国ファンドへの資金流入が急増していたことを指摘していますが、数ヶ月、数年の中長期で見ても同じことが起こる傾向があります。
このコラムで過去に幾度もコメントしているように、膨らんだ風船がいつ弾けるかを予測することは困難です。しかし、風船の膨らみ具合を観察し、特に危険な場所を推定することは可能かもしれません。個人的に、10年という数字に定量的な根拠はないので、徒に不安を覚える必要はないと思っています。しかし、2008年10月に株価が急落している最中に書いた自身のコラムを読むと、当時の恐怖感がよみがえります。そのコラムの中で、このような感想を書いていました。
「世界にあふれる資本、過剰流動性が(今回の金融危機)問題の根幹にあり、今のスタイルの資本市場が成長する限りは、繰り返し起こる可能性の高いイベントなのだと思います。地域の垣根が失われ、グローバルに経済の関連性が高まった今日、今回のように実経済にまで大きなインパクトを与える調整は(国をまたいで)起こりやすくなったのでしょう。我々市場参加者が、今回の経験からいかに学び、新しい形の資本市場を形成していくのかが、次の10年間の大きな課題だと考えています
前回の金融危機発生後、米国はポール・ボルカー氏の起用を通じて、ボルカー・ルールを制定し、また、グローバルにもバーゼル規制を進化させることで金融機関の過度なリスク嗜好は抑制されてきました。この10年間、私たちは過去の教訓に学び、新しい資本市場を形作ったのでしょうか。それとも、市場参加者の本質が変わらないことから、姿形を変えた金融危機が再発することがあるのでしょうか。節目を迎える今年、普段以上に興味を持って市場を観察したいと思います。