投資家、特に金融機関等の機関投資家が不動産投資に求めるものは、不動産価格の値上がり益よりも長期の安定したキャッシュフローです。しかし、上場していることで、不動産が投資対象であるにもかかわらず、流動性と価格の透明性が担保される一方、不動産市況や保有物件の利回りと関係のないところでも同じ取引所に上場している株式と似たような値動きをしてしまうのがリスク管理の観点からの課題です。
私募REITが最初に組成されたのは2010年11月でした。J-REITの設立された2001年から10年を経てできたファンド形態ですが、特徴としては、【1】非上場(証券取引所に上場していない)、【2】投資信託協会規則で定める不動産投資信託、【3】投資信託協会規則で定める「オープン・エンド型の投資法人」、【4】運用期間の定めがない、という4つの条件を満たしているものです。これらの要件を満たした私募REITの登場によって、機関投資家が信頼できる法制度の下、価格変動性に悩まされることなく、安定配当の見込める不動産への投資を行うことができるようになりました。J-REITや従来の私募不動産ファンドと比較すると、私募REITのレバレッジは低めに設定されており、レバレッジに起因する大きな価格変動が起こりにくいこともレバレッジ・リスクに敏感な金融機関等の投資家にとって好材料です。現在、銀行等の機関投資家を中心に私募REITへの投資が急増し、ファンド数は27本、保有する不動産の規模は2兆6千億円を超えており、4年間で約5倍の規模に急成長しました。
懸念もあります。私募REITはJ-REITと違い非上場のため、投資口の価格は不動産鑑定評価の改定に伴い年1-2回程度変わるだけです。また、投資家にとっての資金回収の機会は限られた解約のタイミングのみ訪れます。例えば、J-REITを保有している場合は上場している取引所での取引価格でいつでも売却することができ、換金が容易です。一方、私募REITの場合は、運用者に対して事前に申し入れた上で、年1-4回程度に設定されている解約時のみに解約可能であり、さらに資金化に時間がかかることが想定されます。不特定多数の投資家が共同で小口ずつ投資をしているJ-REITと異なり、少数の投資家の持分割合の大きな私募REITでは、換金にあたって、ファンドが資金を用意するために保有不動産を市場で売却するか、ほかの投資家にファンド持分を売却する必要があります。
いずれの場合も、資金化までに数ヶ月から数年かかることがあります。特に、市況が悪化した際には、投資家が想定するよりも資金化に時間を要するか、大幅な割引価格で売却をする必要に迫られることも想定されます。2010年後半の登場から、低金利下での機関投資家の運用の受け皿ニーズを背景に急成長してきた、比較的歴史の浅いファンド形態であることから、今後の金融市場のサイクルにどのような影響を受けるのか、また、不動産、金融市場に対してどのような影響を与えるのかを注視する必要があると考えています。