日本では、取引所を運営していた会社のひとつである、マウントゴックス社の破綻(2014年)などで脚光を浴びることになったビットコインですが、現在、急速な勢いで成長を遂げており、ビットコイン単体での時価総額が750億ドル(約8兆円)を超えているといわれています。ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格上昇を支えているのは、自国の金融システムを信用していないと思われる国々の個人の購入と、先行者利得を得ようと参入している投機家だと言われています。
ビットコイン以外にもイーサリアムやリップルをはじめとして、日々新たな仮想通貨が誕生し、成長しています。ビットコインのデザインは、発行量の上限を設定していたことも含めて非常に良くできたものであるように思えますが、新しい仮想通貨や、それを活かした資金調達手段であるICOは玉石混合といわれている状態です。今回の中国政府による規制のように、今後も規制当局による関与が予期されますし、実際、詐欺事件や、取引所に対するハッカーの侵入などの問題も、黎明期であるため当分の間は頻繁に起こることが想定されます。しかし、各国中央銀行による大量の資金供給が続く中、既存の通貨の信用がどこまで担保されるかは不明です。また、資金移動の際のコスト(手数料)や制約などを考えると、安全で低コストの仮想通貨の需要は高まるものと考えられます。
さらに、中央銀行、大手金融機関の中にも、現行の紙幣・貨幣から仮想通貨へのシフト、もしくは併用を検討し、一部試行段階に入ったところも出ています。スウェーデンでの法定デジタル通貨の導入、日本の三菱東京UFJ銀行によるMUFGコインの始動などの動きも見られます。もちろん、PtoPのオープンなブロックチェーンを使うビットコインと、プライベートなブロックチェーンを構築する銀行の仮想通貨には大きな違いがありますが、この分野の成長自体は加速していくものと思われます。
今後、ビットコインがますます普及した場合、私たち市民が円とビットコインを併用する機会も訪れるかもしれません。「グレシャムの法則」で有名な「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉があります。額面価値が同じ通貨が2つあれば、実質価値の低い通貨が流通し、人々は実質価値の高い通貨を溜め込む傾向があるとのことです。通貨の併用が起きたときにどのような事態がおきるのでしょうか。ビットコインには実質的な価値の裏づけがないため、同等の取引価値を持つ既存通貨を駆逐して増加していく可能性も考えられます。
ベネズエラ等のインフレに悩む国では、個人のインフレ防衛策としてのビットコインの普及が急速に進んでいます。現在、仮想通貨のメインプレイヤーは中国ですが、今後は世界中で流通量が急速に増加していくことが予想されます。先進各国による極端な金融緩和政策によって市中にジャブジャブな資金があふれる中、仮想通貨の急成長もあいまって、市中における通貨の供給量の管理はより困難になっていく可能性があります。物価に対する影響を含め、金融業に身を置く立場としては注視しなければいけない対象と感じています。