第280回 < インド不動産の現状 >

学生時代にバックパッカーとしてインドの幾つかの都市を巡って以来、何かとインド情勢は気になっているのですが、最近、業務上の投資候補案件の中にインドのIT企業や不動産関連企業を見かける機会が増えるようになりました。2006年あたりからインドの株式市場を対象にしたヘッジファンドが少数ながら世に出たとき、インドの金融市場の変化、成長を感じましたが(<a href=\”/mailmagazine/mail.php?writer=2&detail=50\”>第51回 インドの資本市場整備について</a>)、2014年にモディ政権が誕生して以来、インド経済に更なる活気が出たことは勿論、海外からの注目度も高まったように感じます。
インドのIT企業については、以前に当コラムで触れましたが(<a href=\”/mailmagazine/mail.php?writer=2&detail=276\” target=\”_blank\”>第277回 インドにおけるベンチャー投資について</a>)、今回は、日本を含んだアジア全体でバブルの様相となっている不動産市場について、インドでの状況を少し調べてみたいと思います。基本的に、労働人口が増加する人口ボーナス状態が2040年まで続き、中国を抜き人口世界一になるインドは、当面、経済成長の追い風を受け続けます。中間所得層の割合が多いインドでは、これから住宅購入ニーズの増加が続くと思われます。また、核家族化が進むことも住宅市場にとってプラスに働きます。
一方、過去10年に経済特区を設け、一部の地域のみで外資の直接投資規制を緩和した結果、相当の海外資本が都市開発案件に流れ込みました。その際、汚職事件が多発したことから、ここ数年は都市開発案件への外資流入が激減したようです。特に2008年前後に急増した外資の不動産開発案件は不正の温床となり、プロジェクトが中止するなどして投資家が損失を計上しているケースも多く、外資の撤退が目立ちました。
この状況に危機感を持ったモディ政権下では、不動産に関連する新法案が誕生し、不動産市場の透明性や取引の安全性が増すことが期待されています。現在、2022年までに全国民に住宅を供給するために3,000万戸の住宅供給を目標とする政策の一環で、小規模住宅開発の促進が行われています。理想的にいけば、住宅の需給のバランスの取れた成長が見込まれることになり、一部の都市部を除く価格の急騰は抑えられながら、不動産市場が大きく拡大していくことになります。
今後の不動産市場整備の課題としては、(1)汚職や不正を本当にとめることができるのか、(2)外資の再流入などを背景とした不動産価格の高騰(バブル)を抑制できるか、(3)急速な開発の結果、不動産流通市場の整備が遅れてしまわないか、などが考えられます。また、インドは各州の隔たりが大きく、州が異なれば、ほとんど別の国のようだと指摘する人もいます。不動産価格の州毎での偏りが更に大きくなる可能性も想定されます。
大国となる運命にあるインドに関する投資機会は、今後増加することはあっても減ることはないと考えられます。これからも、成長を続けるインドに対する興味を持って、調査を続けていきたいと思います。