第431回  < 2024年4月発行の金融システムレポートを読んで >

半年に一度、日銀が作成している金融システムレポートの最新版が公表されました。本コラムでは、過去のレポート内容と比較して、日銀が現在の景気や市場の安定性についてどのような見解を持っているかについて見ていきたいと思います。

 今回のレポートはこれまで同様、日本の金融システムは安定性を維持していると総括しており、金融機関は総じて様々なストレスに耐えうるだけの充実した資本基盤と安定的な資金調達基盤を有していると論じています。その一方、これまで以上にテールリスクへの警戒感を強めており、世界的な金融引き締めの継続と海外経済の減速などによって金融機関の損失吸収力が低下する可能性を示唆しています。1年前のレポートまでは、「金融システムが頑健である」と評価していましたが、今回レポートでは、「頑健」という評価は見られません。

 特に今回は、国内外の不動産に関わるリスクと、金利上昇が経済主体に与える影響について深堀りして考察を加えています。不動産については、昨年以降、欧米の商業不動産の空室率の上昇に伴う価格下落、オフィス向け貸出の延滞率の上昇が見られることで、日本の市場に対する影響が懸念されています。しかし、現状の日本における商業用不動産の価格は堅調に推移しており、欧米と異なるために国内金融機関における現状のリスクは限定されています。それでも、長期間続いた金融緩和局面における不動産関連投資の広がりから、不動産価格の下落が広範囲に影響するリスクについても言及されています。

 金利リスクについては、国内金融機関は総じて健全な状況にあると論じています。各金融機関は国内金利の上昇リスクを勘案して円債投資に慎重になっており、保有債券のデュレーションを短期化させた結果、金利上昇に伴う評価損リスクを抑制しています。とはいえ、前回の利上げ局面である2006年時点と現在を比較すると、現在は金融機関の貸出の固定金利比率が増加しているなどの点から、利上げによる金融機関の利ザヤ改善による収益改善幅は限定的であり、有価証券投資からの損失や不動産関連の潜在的な損失を吸収する余地は減っているように見えます。

 そのほか、特筆すべき点として今回のレポートではプライベート・エクイティ、及びプライベート・クレジットファンドの資産運用残高の成長ペースの高さに触れています。低金利環境下で急速な成長を遂げてきたこれらのファンド投資が、今後、金利が上昇する中では、変動金利型の融資を活用した高いレバレッジの影響で一般的な企業よりもデフォルト確率が上昇する可能性を示唆しています。

 このように、昨今の市場環境を踏まえて、レポートの記載が徐々にリスク警戒感を増しているように思います。これまでも金融機関による不動産関連融資の増加についての懸念はありましたが、米国金利の上昇に伴い、海外商業不動産市場の調整が現実に起きた現在、日本市場におけるリスク顕在化も現実味を帯びてきています。

米国では2004年6月の政策金利変更以降、日本では2006年7月の金融政策決定会合以降、それぞれの金利が上昇しました。その後、2008年の金融危機発生を受けて、長きにわたる金融緩和政策がとられ、現在はその転換点と言えます。今回のレポートを読んでいると、現在と2006年の市場環境の類似性を意識していることが感じられました。それは、近い将来起こるであろう市場の調整局面を示唆しているのかもしれません。これまで以上に、不動産や金利に影響を及ぼす事象に目を配りながら投資にあたる必要があると考えています。

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