第278回 < M&Aにおけるファンドと銀行の役割 >

近年、M&A(合併、買収)が増加しています。国内市場全体で2016年には2,500件以上のM&A案件があり、過去10年で最大でした。また、投資会社やファンドが主導する買収に関しても、昨年は過去最大の450件近い案件がありました。2017年も昨年とほぼ同様のペースで進んでいます(いずれもレコフ社調べ)。その中で、最近の日本でも買収を先導しているファンド(ここでは特にバイアウト・ファンド)と銀行について考察してみます。

米国では、従来ファンド主導の買収案件が多く、大型案件を見ると、かなりの割合でファンドが関わっていることがわかります。ワーナー・ミュージック、ヒルトンホテルグループ、バーガー・キング等、私たちにも馴染みのある米国の大手企業グループもファンドによる買収を経験しています。これらの投資会社、ファンドによる企業買収が日本でも比較的ポピュラーなものになりつつあるようです。
ファンドと並んで国内外の金融機関、特に銀行は企業買収において非常に重要な役割を果たしています。ファンドが企業買収を行う際に、多くはレバレッジド・バイ・アウト(LBO)という手法を使います。この手法には銀行からの借入れが必須となります。一般的なLBOにおいては、ファンドが事業会社を買収するための新会社を設立します。その際、投資家から集めた資金を使って株式部分に出資すると同時に、買収対象となる事業会社のキャッシュフローを担保にして銀行から借入れを行い、買収・合併を行います。その際、銀行は事業会社から出てくるキャッシュフローが安定的であれば、キャッシュフローを中心に考えた企業の利益指標であるEBITDA(金利・税金・償却前利益)に対して何倍かの金額を融資することがあります。

その時々の環境や対象事業等によって銀行の貸出し条件は変わります。例えば、市場環境が落ち着き、金利も低位安定し、景気も安定している現在、安定したキャッシュフローを出している事業会社の買収に対して、銀行はファンド側にとってかなり好条件の貸出しを行う可能性があります。例えば、前出のEBITDAが5億円の会社に対して、銀行がEBITDAの5倍の25億円を買収資金として貸出す事例もあるようです。また、期間、金利などについても過去対比でもかなりの好条件での融資が見られます。
ファンドはなぜ買収を行い、その際に銀行はなぜ融資を行うのかをあらためて考えてみます。ファンドは対象企業の株式をできる限り安く取得し、事業、キャッシュフローの改善を通じて取得価格よりも高い価格で売却することが目的です。うまくいけば、ファンドの背後にいる投資家に高い投資利回りをもたらすこと、買収対象企業の価値を上げることで社会的な価値を増すことが可能です。投資会社は、その結果、成功報酬としての運用者利益を得ます。一方、現在の日本で起きている買収案件の5分の1を占める投資会社、ファンドに対して融資を行う銀行はどうでしょうか。

昨今、低金利下で金融機関の資金運用難が続いています。有価証券運用に手詰まり感が漂う中、銀行の本業である貸付を増やすべきとのプレッシャーも日に日に高まっています。一方、日本企業の現金保有率は歴史的にみてもきわめて高く、手元資金は潤沢であり、新規設備投資などにおける銀行借入れは限定的です。ここにきて、国内でもファンドを主導とするLBOが増加してきました。銀行は、一件あたりの融資額が大きく、比較的高い利鞘が稼げるM&A向け融資に妙味を見出し始めました。これまで、不動産など目に見える資産のみを担保として融資することに慣れていた国内の金融機関が、事業会社のキャッシュフローを担保として多額の融資をすることは稀でした。しかし、企業買収、あるいは再生のプロフェッショナルを擁する投資会社、ファンドの登場によって、銀行はファンドと二人三脚での事業評価からの融資を積極的に行うようになりはじめました。現在、メガバンクをはじめ大型案件でのLBOが目立ちますが、これからは、事業承継問題に悩む地域の事業会社に対する小型案件のLBOが増加する中で、地方銀行の融資の参加も数多く見られるようになるのではないかと考えています。