第248回 < スリランカとメッタ・スッタの教え >

先月、当社がご提供しているファンドの投資対象国であるスリランカに訪問する機会がありました。北海道の8割ほどの面積ですが、人口は20百万人を超え、GDP成長率も5-6%と、近年経済成長が著しく、また、インドの近隣国として注目を集めている国です。短い訪問でしたが、個人的には、25年以上前に初めて訪問した当時のシンガポールに似ており、成長のポテンシャルを感じました。日本では、セイロンティーの名前で親しまれているように、紅茶の名産地として有名ですが、国民の7割を仏教徒が占める仏教国ということは案外知られていないかもしれません。特に、仏教発祥の地ではあるものの、今では約8割がヒンドゥー教徒で残りも大半がイスラム教徒で占められているインドからの仏教伝来の起源は紀元前3世紀に遡るそうです。さらに、ミャンマーやタイ等の東南アジアに広まった仏教は、スリランカが起源と言われています。宗教は、2009年に終結したばかりの約26年続いた内戦の要因の一つとも言われますが、現地の寺院を訪ねると、仏教とヒンドゥー教の融合も見られます。

スリランカを訪問するにあたり、ある方から、せっかくスリランカに行くのであれば、ぜひ「メッタ・スッタ(慈経)」の教えを感じてきてほしいとのアドバイスを頂戴しました。メッタ・スッタは、スリランカの仏教徒には浸透している「お経」で、日本でいう「般若心経」のような存在として、頻繁に唱えられているようです。その内容は、足るを知り、怒らず、誠実に、他人に対して母親が子供に対して持つような慈しみの心をもって接する、というような人としての生き方を説いたものです。にわか勉強でしたが、個人的には、キリスト教的な価値観と比べても、私たち日本人には馴染みがあり、理解しやすい内容のように感じました。

さて、現地では短期間の滞在であり、スリランカの人々との交流は限られていましたが、会う方々が非常に穏やかである印象を受けました。仕事上あった方々、ホテル、レストラン、お店のスタッフ、さらには道をすれ違う人々の多くは穏やかな微笑みを浮かべています。コロンボ滞在中に、早朝海沿いから街中にかけて10キロほどランニングをしましたが、すれ違うときに気軽に挨拶を交わしてくれる人も多く、他の国に比べると友好的な国民性を感じました。また、これまで見てきた新興国にありがちなギラギラした部分が少なく、居心地の良さを感じます。もっとも、今回の短期間の滞在で国民性を理解できたとも思えませんし、メッタ・スッタがどのように国民に根付いているかも分かりませんでした。ただ、今回の滞在を経て、この国にぜひまた戻り、ゆっくり過ごしてみたいと感じています。

日本は近代の民主主義と市場経済の形態で高い成長を成し遂げた後、国の成長を測る指標である国内総生産GDP成長率は長期低迷しています。その中で、潜在成長率を少しでも上げ、将来世代がよりよく生活できるために、われわれ個々人や企業はケインズの言う「アニマル・スピリット」を発現することが期待されています。ややもすると、営利主義、個人主義にはしりがちな「アニマル・スピリット」ですが、新興国として成長するスリランカにおいて、メッタ・スッタの考えがどのような役割を果たすのか。どのように慈しみの心と経済成長が併存できるのか、スリランカにこれからも注目していきたいと思います。