第343回 < 千鳥ヶ淵の桜 >
当社は千鳥ヶ淵交差点から徒歩で10分くらいのところに位置しています。残念ながら今年は新型コロナウィルスの感染対策から皆で花見を楽しむ機会は持てませんでしたが、千鳥ヶ淵の桜は見事に咲いていました。せっかくオフィスの近くにある桜の名所ですが、今年は近くを通りかかる際に眺める程度しかできませんでした。人通りもまばらな皇居のお堀沿いの桜並木は樹齢の若い桜も多いためか、美しいピンク色の花びらも多くみられました。ソメイヨシノばかりではなく、サトザクラ、マイヒメ、ベニシダレ等の異なる桜が咲いているそうです。
少し調べてみると、明治時代に千鳥ヶ淵前に位置する英国大使館の前に桜が植えられたのがこのあたりの桜の起源のようです。その後、戦後の英国大使が枝垂れ桜を寄贈するなどして、徐々にこのあたりに桜が増えていったようです。何度か入ったことのある英国大使館内にも美しい花をつける桜の木が多くあったように覚えています。記録によると、1950年に千鳥ヶ淵に区営ボート場ができた際に当時の千代田区長の声かけで植樹されたとのことです。その頃からこの一帯が桜の名所になったものと思われます。
桜鑑賞を楽しめる千鳥ヶ淵緑道から公園にかけての一帯は、2009年に再整備されたとあります。そう言われてみると、1990年代、大手町に勤務していたころに皇居の周りを走ったりしていたころは、ここまできれいに整備されていなかったような記憶があります。また、英国大使館の周囲や千鳥ヶ淵緑道の周りも高いビルが立ち並び、皇居の周囲で最も海抜が高いところにある千鳥ヶ淵公園から眺める大手町、丸の内の景色も当時とはだいぶ異なって見えます。
今はすっかりきれいに整備された千鳥ヶ淵の桜並木ですが、日本の高度成長期以降、千代田区のオフィス人口が増加するにつれて、ゴミで溢れた時代もあったようです。最近では公園内のごみ箱の設置もなくなり、公園内にごみを投棄する人もほとんどいなくなったように思います。千代田区のボランティアの方々の長期の努力の賜物でもあるようですが、人々の意識の持ち方を変えることで、ここまで美しい景観を保てるのだなと感心します。
新型コロナウィルスの感染の広がりで刻一刻と社会的なコストが急増している昨今、感染者を増やさないための一人一人の取り組みが重要だと感じます。このコラムを書いている4月6日現在、政府が緊急事態宣言の発令を検討しているというニュースが流れています。緊急事態宣言の発令自体はわれわれの新型コロナウィルス対応への意識をさらに引き上げるために重要なこととは思います。しかし、手洗い、うがい、アルコールによる消毒を励行し、感染が想定される状況に身を置かないことで感染を抑制するということは、あくまでも個々人の意識的な取り組みにかかっていると思います。桜並木の美しい千鳥ヶ淵緑道を再生させ、ゴミの少ない美しい街並みを実現している東京の住民であれば、今回の感染拡大を抑制することも可能なのではないかと考えるのは少し楽観的過ぎるかな、と思いながら会社近くの散りゆく桜を眺めています。