第226回 < 市場流動性と金融危機 >

先進各国の異常とも思える低金利政策が続き、そこから生じる過剰流動性相場について、何度か述べてきました。ちょうど一年前にも中央銀行の金融緩和政策と出口戦略の難しさについて、このコラムでも(第201回 中央銀行のトラウマと過剰流動性相場の後半戦)触れています。2014年末には、日本銀行が保有する国債の割合は、全体の約25%に達しました。日銀が公表している3月末の数字を見れば、2年債から40年債までの保有残高は約210兆円、物価連動国債や利付国債の残高を合わせれば215兆円を超える債券を日銀が保有しています。今後、現在の年間80兆円の増加ペースを前提にすれば、単純計算で2016年度末には国債発行残高の半分近くを日銀が保有することになります。更にいえば、その後5年も同じペースを続けた場合には、国債の大半を日銀が保有することになります。

実際に、日銀が国債のすべてを引き受け、保有するような事態は起こりえないと思いますが、現在はそれほど異常な状況にあることがわかります。私たちは、このような異常事態の上に、現在の過剰流動性相場、それによる株価上昇、不動産価格上昇が起こっていると理解するべきだと思います。現在、株式市場は活況で、所謂流動性は潤沢にあります。不動産市場も活況であり、所有物件を売りたい投資家にとっては良い環境です。この流動性が安定的に続くと考えて投資、運用をするには非常に危険な水準に到達していると思います。

私の最も尊敬する米国の運用者が3月に投資家宛に送ったレターの内容は、流動性について非常に示唆に富んだものでした。市場流動性の枯渇は唐突に起こります。2008年の9月に米国の最大手保険会社AIGは、1兆ドルの資産を保有していたにもかかわらず、たかだか200億ドルのCDSに関わる支払いを担保する流動性のある資産を拠出できなかったために破綻の懸念が生じ、最終的には政府が1,800億ドルを貸し付けることで難を逃れました。しかし、その際に払った代償は大きく、株主価値は大きく毀損しました。また、AIGのような最大手は政府からの救済措置の対象になりましたが、リーマンをはじめ、その際に破綻した金融機関は数多くみられました。それらの原因は、過度なレバレッジと流動性の枯渇でした。今日、流動性に関する懸念がほとんど見られず、このような市場環境を前提とした運用やファンドが見られ始めるとすれば、警戒すべき状況と感じています。

日銀、欧州中銀、FRBの先進国中央銀行の金融緩和からの出口戦略は困難を極めます。経済のカンフル剤としての役割を担っているため、タイミングの判断が合理的に下せるかどうかは疑問があります。しかし、前述のとおり、国債の買入れ一つとってみても限界は存在し、残された時間は限られています。流動性の逆回転が起こるような状況下の資産形成について思いを馳せ、投資行動を決めていくことの重要性が増していると考えています。