第210回 < MLP (マスター・リミテッド・パートナーシップ) について >
最近、国内の投資信託でも設定が増えてきた新しいアセットクラスに、MLP(マスター・リミテッド・パートナーシップ)という投資対象があります。2年半前の2012年2月の本コラムでも取り上げたことのある、米国発の金融商品ですが、この1年間で日本の個人投資家にも徐々に馴染みが出てきたようです。当時の本コラムの説明を一部転用して、簡単に説明すると以下のようになります。
「エネルギーパイプラインや電力施設に投資を行うMLP(マスター・リミテッド・パートナーシップ)という投資対象が脚光を浴びています。簡単に言えば、REIT(リート)が不動産を投資対象とする小口化ファンドとすれば、パイプライン等のエネルギーインフラを投資対象とする小口化ファンドと言えます。REITと同様にリターンの大半を投資家に配当することを義務付けられた投資商品であることから、日本と同様、低金利に悩む米国投資家にも人気があり、個人、機関投資家の投資対象として浸透しつつあります。また、国内エネルギーインフラ投資も活況で、機関投資家の長期投資のニーズは底堅いものがあります。最近日本の商社が海外資源関連に投資する事例が新聞紙面を賑わせることが多いと思いますが、米国企業も国内外の資源、エネルギー投資を拡大させています。」 (中略)「この分野に対する投資は、今後も続くものと考えられます。」
当時から、当社でもこの新しいアセットクラスに興味を持って調査を続けました。その過程で、当社の運用するファンド・オブ・ファンズを通じた投資を行い、国内での商品化の是非をめぐる検討等を重ねてきました。その間、日本においても、上場インフラ投資法人に関する議論が盛んになり、機関投資家や個人投資家も興味をもって、エネルギーを含む、インフラストラクチャーを投資対象として見るようになりました。日本のみならず、世界でも最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理独立行政法人)が今年カナダの公的年金と共同して5年間で最大2,800億円を先進国の電力や港湾などのインフラに投資することを発表したことで、更に多くの投資家がこの資産クラスに注目するようになったと思われます。
米国では、様々な形態の金融商品が上場していますが、MLPは普通株式とは異なり、日本でいう投資事業組合の形態に近いものです。これを市場に上場させる仕組みを作り、さらにREITに迫るほどの勢いで成長させることができるのが、米国の金融市場の懐の深さといえます。現在、高い分配利回りと値上がりによる収益が大きいため、日本でも注目を集めているMLPですが、投資におけるリスクも見ておく必要があります。投資対象のキャッシュフローは、大部分がガス、石油の備蓄、エネルギーの輸送などに関わる施設からの賃料等に裏付けされています。しかし、キャッシュフローの一部は、ガス・油田の探査、開発、生産の成否によることや、卸売、小売等の状況に影響を受けます。今後、エネルギー事情が大きく変わる際には、価格も変動することになります。
また、現在はMLPを運営している事業会社が安定して成長していますが、将来にわたって経営基盤が安定しているとは言い切れません。仮に、事業会社間の競争が激化し、受注が激減するような事態等でMLP自体の財務状況が悪化することになれば、MLP価格自体も下落する可能性があります。これら以外にも、将来金利が上昇した際には、相対的な利回りの魅力度が低下します。更に、現在海外投資家に有利に働いている税制に手が加えられた場合には、他の金融商品対比で、MLPの魅力度が後退することも考えられます。これらの状況によっては、金融商品としての需給の悪化から、価格が大幅に下落するリスクも考えられます。これらの状況を把握しながら、日本におけるMLP関連商品の今後の展開について考えていきたいと思います。