第197回  < 成長戦略と岩盤規制 >

昨年からの株価回復に見られるように、外国人投資家の日本に対する期待は過去10年では最大に膨らんだ状態になっていると思われます。アベノミクスに対する評価も高く、実態面は別として、それぞれの市場参加者が、様々な日本経済の成長シナリオを語る姿も目にするようになりました。但し、現時点では、金融政策と財政政策による効果の範囲を出ておらず、実際に株価に最もインパクトをもたらしたのは円安効果ともいえます。今後、日本の資産を外国人が買い進む際には、第三の矢である「成長戦略」に対する期待が大きくなっていることはメディアでも声高に取り上げられています。

成長戦略が議論される中で、既得権益による改革や変化への反対が根強い「岩盤規制」をどのように突き崩すかがカギになるという話をよく聞きます。特に医療、農業、教育分野等の規制緩和には、強い抵抗勢力が存在し、事業の前線にいる方々はこのような規制の壁に突き当たって、悔しい思いをしたことも1度や2度ではないと思います。金融事業を生業とするわれわれも、これらの規制に突き当たることがしばしばありますが、他の規制業種に比べれば、それでもまだ、グローバルスタンダードに近いところで働いているのではないでしょうか。特に、欧州ではEUによる全体的な規制が様々な形で金融業務を縛るケースも出てきていますし、2008年の金融危機以降の米国でもドット・フランク法やバーゼルIIIという新しい規制の影響が出ている中、相対的には日本の規制というのは事業者にとって有利なものになりつつあるという印象もあります。

NISA導入なども、金融に関する制度改革が前向きに進んでいるとの印象を与えているかもしれません。また、最近、話題になっているインフラストラクチャ(公共施設)への投資を投資信託などの集団投資スキームを通じて行えるように法整備をし、一般個人の資金を取り込みやすくする工夫など、アジア諸国に後れをとっている分野とはいえ、成長戦略としてとらえてよい取組も見られます。しかし、これらの分野であっても、個別具体的に案件や議論の内容を見ていくと、様々な障壁が存在しています。特に、金融分野の成長戦略の阻害要因となりやすいのが、税制の議論です。アジアにおける金融のハブ(拠点)を目指す際に、シンガポール、香港やその他の金融都市との競争では、常に日本の税率の高さや複雑な税制がネックになっています。これまでに、金融特区構想や税率の低減が議論になったことも数多くあったと記憶していますが、そのたびに厳しい現実を目の当たりにしてきました。

今回、消費税を上げるにあたって、様々な景気刺激策の中に減税を組込むまたとないチャンスとも思えたのですが、法人税減税をはじめとして、現時点では掛け声で終わってしまっている感があります。税制は、政治の中でも「聖域」として扱われているとも聞いたことがあります。しかし、アジア諸国の成長を横目で眺めながら、日本が成長戦略を考えるにあたっては、財政、経済政策と同じ土俵の上に税制を載せて議論する必要があると強く感じます。金融関連の規制において、個人的には日本は優れた側面も多くあると考えています。また、事業を支えるインフラストラクチャも他国に劣っているとは思われません。ましてや、世界有数の資金を保有する日本において、英語による契約関連サポートの強化と投資家に使い勝手が良い税制があれば、日本の金融業は、アジアの資金を取り込み、世界に誇れるレベルにまで育つ可能性を秘めていると思っています。