第187回  < ファミリーオフィスのヘッジファンド投資 >

ヘッジファンドへの投資は、欧米の富裕者層がその先鞭をつけたと言われています。独立系運用会社の成長過程のひとつに、ファミリーオフィスの存在がありました。一族が自らの財産管理を子弟や信頼できる知人に依頼する際に、資産管理等を目的とした会社を設立します。一族の資産保全を目的としているため、従来、元本確保、あるいは絶対収益追求型の運用を意図しています。外部の運用者に委託する際に、ファンド・オブ・ファンズ形式をとるケースが多く、親族の誰かが実務を行う場合や、ファンドの目利きを採用することもしばしばありました。一方、外部への運用委託を良しとせずに、資産管理会社自らが直接運用するケースもみられました。この場合は、外部の運用会社や投資銀行で活躍していた人やチームを運用者として採用することになります。

このような、ファミリーオフィス型のヘッジファンドが徐々に運用成績を上げ、経験を積んでいくことで、外部からの資金を受け入れるに至るケースもあります。ファミリーオフィス同士の横のつながりから、口コミで広まって別のファミリーオフィスが運用を委託することも一般的です。実際に、アメリカにはマルチファミリーオフィスといって、複数の一族の資金を運用する資産管理会社が数多くみられます。現在、米国でのファミリーオフィスは4,000社ともいわれています。一方、欧州では、プライベートバンク系のファミリーオフィスビジネスが中心なので、独立系資産管理会社の数としては少ないとはいえ、歴史ある一族の数は圧倒的に多く、これまでもヘッジファンド投資の担い手になってきました。ヘッジファンドの歴史の中で、ソロス等の黎明期のファンドを支えたのも欧州系のファミリーオフィスの資金だったと思われます。

最近、欧州でも独立系のファミリーオフィスが増加していると聞きます。日本では金融資産が5億円を超えると超富裕者層と定義することが多いようですが、欧米での定義は約50億円となっており違いがみられます。実際にファミリーオフィスを独自に持つ一族は、欧米での定義で超富裕者層と定義される中でも、さらに一部と思われます。このレベルになると、情報収集能力や設備においても金融機関などの機関投資家と比べて遜色ない組織を作ることが可能なものも出てきます。欧米と日本における金融業や富裕者層ビジネスには大きな違いがみられますが、特に日本におけるファミリーオフィスという分野は、欧米と比べて著しい隔たりがみられます。

この隔たりが、日本におけるヘッジファンド業界の成長にも影響したことは疑いないと考えています。今後、欧米型のファミリーオフィスが日本で成長分野になるかどうかはわかりません。むしろ、文化や税制の違いなどを考えれば、同じ形での発展が見込めるとは考えにくいと思います。しかし、世界でも有数のファミリービジネスを抱える日本において、事業承継や遺産相続について頭を悩ますオーナー経営者の数は相当にあると思われます。これらのファミリービジネスのオーナーが日本のファミリーオフィス、ひいてはヘッジファンド的な運用の担い手となりえるのか、海外の例を勉強しながら興味を持ってみていきたいと思います。