第184回 < 日本のヘッジファンド運用者の現状 >
ここ数週間、立て続けにヘッジファンド関係の会議の主催や司会進行に携わる機会がありました。6月27日には国際的なヘッジファンドの業界団体であるAIMA JAPAN(オルタナティブ・インベストメント・マネジメント・アソシエーション)の年次会議を開催しました。基調講演に竹中平蔵氏をお招きしてアベノミクスについてお話していただいた後、ヘッジファンド関連の規制や税制、日本のヘッジファンド運用者によるパネルディスカッションなどを行い、国内のヘッジファンド関係者が多数参加される会議となりました。今年で8回目となる会議でしたが、例年以上に盛況となり、日本の市場環境の回復とともに、ヘッジファンドに対する投資家の皆様の興味の高さが伺えました。竹中氏には45分の講演時間のうち大半を安倍政権における成長戦略についてお話しいただきました。特に、ヘッジファンドを含む世界の投資家が現在一番興味を持っている「第3の矢」である成長戦略について、竹中氏もメンバーになっている産業競争力会議での議論を中心に多少踏み込んだ内容を聞けたことは本会議の成果だったと思います。また、世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のご担当者に話していただいた資産配分に関するご講演も非常に興味深い内容でした。(http://www.gmac.jp/aima/HFF2013/#agenda)
一方で、現在活躍する日本のヘッジファンド運用会社の運用担当者の皆様にも登壇してもらい、パネルディスカッションを行ってもらいました。このコラムでも過去何回か触れていますが、2007年以降、「ジャパン・パッシング」等といわれ、グローバルな投資家の投資対象としての割合が大幅に落ちてしまっている日本のヘッジファンドですが、運用成績の観点からは非常に健闘しており、世界の名だたるヘッジファンドにも決してひけを取るものではありません。
日本経済の低迷から軽視されてきたこれらの運用会社にも、アベノミクスによってグローバル投資家の目が再び向き始めています。残念ながら、投資家による5年もしくはそれ以上にわたる日本軽視のトレンドを覆すのにはまだ少し時間がかかると思われますが、私達は日本の優秀なヘッジファンド運用者がグローバルな大手投資家の資金を受託できるような環境を整備していきたいと考えています。
AIMAとは別のイベントでは、機会に恵まれて国内の大手ヘッジファンド運用会社や設立間もないヘッジファンド運用会社の創業メンバーの方々をお誘いして、東京証券取引所内の会議場でパネルディスカッションを開催しました。AIMAの会議の聴衆がヘッジファンド業界関係者や機関投資家の皆様だったのに対して、当イベントでは現役の投資担当者の方々が多数お越しになっていました。本パネルディスカッションでは、独立系運用会社を立ち上げてヘッジファンド運用を行う際のノウハウや難しさについて、第一線の運用会社経営者、運用担当者からの忌憚のないお話を伺うことができました。
幸いにも1990年代から日本のヘッジファンド運用業界に関わることができ、その変遷に触れてきましたが、この20年の業界の発展は必ずしも理想的なものではなかったと思います。度重なる金融危機、マドフやAIJに代表される詐欺事件による投資家の疑念、規制の強化や前述の日本市場軽視の流れなどは日本拠点のヘッジファンド運用会社の成長にとっては厳しい向かい風だったと思います。しかし、その逆風の中で磨かれ、生き残った中からは、確実にグローバルスタンダードの運用会社へと成長を遂げるものが出てくると信じています。投資家の皆様の運用ニーズの多様化や日本の金融業界の成長のために必要な要素を、現在の日本のヘッジファンド運用会社の経営者、運用担当者は持っており、その役割を担っていると自覚していることを感じる数週間でした。