第168回 < 欧州出張について(1) >
先日、欧州出張を行いました。パリで行なわれたヘッジファンド関連の会議へのパネリストとしての出席と、パリ、ロンドン拠点の運用者への訪問調査、投資家動向の確認が主な目的でした。今回の会議で主な論点となったのは、各国当局による投資顧問会社などの金融機関に対する規制、企業ガバナンス及び運用会社自身のガバナンスでした。その他にも、欧州危機によるヘッジファンド運用会社への影響や運用会社のオペレーションリスクの管理などがトピックとして挙げられ、約2日間の会議の中で活発な議論が行なわれました。
会議への日本人としての参加者は筆者だけでしたので、私からは、日本における運用会社関連の規制の現状や、ヘッジファンドを中心とする国内運用会社の活動状況についての報告を行なうとともに、運用業界を取り巻く環境が各国でどのように異なるかについての討論を行ないました。同じパネルには英国の金融庁にあたるFSAから運用会社監視の責任者が登壇していたのと、欧州大陸で来年施行される、新金融規制法AIFMD(Alternative Investments Fund Management Directive)に詳しい担当者等が顔を揃えました。ちなみに、このAIFMDの施行によって、欧州の投資家は欧州外に拠点のある運用者、ファンドへの投資を著しく制限されることになります。そのような喫緊の課題も含めて、欧州におけるヘッジファンドやプライベートエクイティファンドの投資事情について、当局者などと直接話し合える機会を持つことができたのは有意義でした。
会議の場で気になったことは幾つかありますが、最近いつも感じるのは、グローバル金融における日本のプレゼンスの低下です。もともと、大陸や米国の投資家、運用者は1990年代後半以降、日本市場に対する興味を徐々に失ってきました。それでも、世界第2位の株式市場を有する国であり、1400兆円にも及ぶ個人資産を保有する国として、各国金融関係者は常に注意を払っていたと思います。しかし、特に2008年以降のジャパン・パッシング(日本素通り)の流れは止め難く、今回の私への質問も、日本に直接関連する内容というよりは、新たなアジアの金融拠点であるシンガポールに関する質問が中心となりました。また、運用者や投資家が日本の金融市場や投資家について話をする際は、「金融商品を持込みたいのだが、どのような形でアプローチをすべきか分からない」「日本国内のパートナーと組みたいのだが、コンタクトが難しい」「規制の内容が分からない」という意見が多く出ました。今回の参加者の顔ぶれなどを見て、われわれ日本人の金融関係者がもっと国外に出て、彼らに対して、正しい知識を持ってもらうことが、ひいては日本金融市場の発展につながると感じました。
今年、AIJ投資顧問による詐欺事件、増資インサイダーに関わる問題、長野県建設業厚生年金基金の問題と、日本では運用に関する大きな問題が相次いで報じられました。このような不祥事が続いたこの機会にこそ、問題点をしっかりと整理し、海外の運用者、投資家が安心して日本国内の市場で運用を行い、また、運用者に資金を委託する素地を作る必要があると感じました。また、国内の投資家が、今回の教訓を活かして海外の投資対象に目を向けることのできる体制を整えることができれば、一連の問題をむしろ奇貨とすることができるかもしれません。