第166回 < 日本の個人投資家にとってのオルタナティブ投資とは(2) >
前回のコラムでは、我々日本人の個人資産のかなりの部分が、銀行預金、生損保、年金掛金等を通じて、結果的に国債保有に結びついているというお話をしました。日本の10年国債利回りが0.8%の現在、利回り目的で国債を保有する意味はほとんどなくなっています。安全資産という意味での存在価値は保っていますが、前回のコラムでも書いたように、日本の債務残高は1000兆円を超える勢いで増え続けており、頼みの綱の個人金融資産残高を上回るのも時間の問題のように見えます。
そのひとつの結果が、年々増加する国債残高に占める海外勢の保有比率の上昇です。今回発表された、2012年6月末時点での海外投資家の日本国債保有比率が8.7%に上昇していました。欧州債務危機から、日本国債に資金が流れたという理由を聞きますが、同時に徐々に国内投資家の買い余力が落ちてきていることもあると思われます。特に年金基金は、高齢化を背景として、掛金よりも払いが大きくなっていきます。安全資産とはいっても、運用資産のキャッシュ化ニーズに伴い、解約が増えるのが道理です。
このように、10年単位で見た個人の資産形成における国債リスクを十分に考慮して、我々は今後の資産運用を考えていく必要があります。ここで考えられるリスクシナリオについて順を追って考えて見ます。
【1】国内の国債購入余力が徐々に低下した結果、海外投資家による国債保有比率が2桁を超え、海外投資家の売買動向が国債価格に与える影響が増してくる。例えば、外国人投資家の需給によって、金利が0.5%単位で動く可能性が出て来る。
【2】そのような状況下、日本の景気低迷が長引き、景気改善を伴わない、資源価格高騰などからくるサプライサイドによる物価上昇が金利上昇に結びつく。更に債務比率がGDP対比で300%に達したうえ、金融緩和を出来ない国の事情を見越した外国人投資家先導の売りによって、国債価格は大きく下落し、日本(人)の保有する資産価値が大幅に目減りする。
【3】このような金利上昇初期において、円は対他通貨で高く維持される可能性もあり、その際、円安による景気刺激効果は期待できない。一方、需給ギャップが是正されないまま、スタグフレーションの様相を呈する可能性が考えられる。その後、円安を通じて国内景気が浮揚し、最終的には需給ギャップを埋めていく可能性もあるが、ある程度の期間、国民は厳しい経済状況を経験する可能性がある。
従来のスタグフレーションシナリオは、需給ギャップの大きさや、デフレ誘導型の環境から考えにくい選択肢ではありました。しかし、国民資産の大きな部分を占める国債の大幅価格下落というイベントが起きた場合には、そのシナリオの蓋然性が増すのではないか、というのが筆者の想像です。現時点では、10年近い先の状況ですので、他のシナリオに切り替わる可能性も十分にある程度の話ではあります。
しかし、そのようなシナリオが蓋然性を持つ状況下でなくても、国債偏重型のポートフォリオのヘッジのために我々が考えられるのは以下のような資産や投資手法ではないでしょうか。
【1】金利上昇時に収益に貢献するインフレリンク債券や国債空売り戦略等の流動性のある投資運用戦略(投信)【2】グローバルに換金性の高い商品、あるいはエネルギー関連商品などの実物資産への直接投資、(ファンド 経由等の)間接投資
【3】資源国・新興国資産(為替、株式、債券等)
【4】相場の上下動に関わらず、特殊な機会に収益の源泉を求める投資手法(裁定取引、ディストレスト債権投資、未上場株投資、バイアウト等)
【5】不動産、森林、エネルギーインフラ等の大型資産への投資、小口化されたファンド投資
【6】 ワイン、時計、宝石、絵画等の嗜好品ポートフォリオ
先進的な資産運用を行う大学基金などでは、いち早く上述の投資対象への配分を増やすことで、インフレや相場変動に強いポートフォリオ運用を行ってきました。勿論、新しい試みという側面も強かったため、いろいろな試行錯誤が行なわれてきました。その中で、このような投資を行なう際の幾つかのデメリットも観察されています。例えば、上記【3】から【6】のような投資では、一般的に流動性のリスクを負いますが、これらが忘れられる傾向があります。また、【1】や【2】の投資を行なう際でも、思わぬ価格の変動に晒されることもあり得ます。このような経験や知識を持った投資家が、合理的な資産ポートフォリオを追求する中で、より投資家が安心して取り扱える素地ができてきています。
上述のような投資を行うためには、我々個人が知識を得るための場は圧倒的に不足していますし、投資の選択肢も限られています。当社では、引続き、このような投資に関する知識やアクセスを皆様にご提供するよう、努力を続けていきたいと思います。