第147回 < 中国出張報告 >
前回コラムでお話したとおり、11月10日、11日に中国上海出張を行いました。参加者が700名を超える「先物機関投資家セミナー」でのスピーチと上海に拠点を置くヘッジファンド運用会社への訪問が主な目的でしたが、最近の中国市場に対する中国国内での見方をアップデートするのに良い機会ともなりました。
最初に感じたことは、中国当局は金融市場の規制緩和や新ルールの成立に向けて精力的に取組んでいるということでした。海外の目としてみていると、ニュースにも出てこないので分かりにくいのですが、中国国内の投資信託会社、証券会社、先物取引会社は、当然のことながら規制緩和をビジネスチャンスとして、様々な新規ビジネスの企画を行っているという印象を受けました。今回の会議にちなんだ例としては、中国では2011年8月に国内投資信託会社に対して商品先物関連の投資信託設定が認可され始めました。
現時点での証券、商品取引のノウハウが異なるため、設定のスピードは早くありませんが、「商品」あるいは「商品先物」に対する投資家のイメージが日本ほど悪くない中国では、今後商品先物を投資対象とした公募投資信託の設定、販売が進んでいくことは間違いないものと思われます。何よりも、会議中に質問に来る中国国内の関係者の人々の新規ビジネス設定への熱意を強く感じました。質問の内容も具体的であり、一刻も早く考えを商品化し、規制緩和の波に乗るという意欲がうかがえました。また、数年前まで、この手の会議に参加しても英語、日本語を話す人と会うと、ほとんどが海外からの参加者だったのですが、今回は95%以上が中国国内からの参加者であるにもかかわらず、流暢な英語、日本語を話す方も多く見られました。
経済成長イコール市場の成長という側面もあり、活気に満ちています。市場や新規ビジネスの育成という観点からも政府側と民間側で足並みが揃っているように見えます。今回、ミーティングを通じて中国投資家が自国経済や自国市場についてどのように考えているかのヒアリングも行いましたが、概ね国内景気に対しても強気の見方をしている人が多いものでした。以下、中国景気についてどのような見方が大勢か述べてみたいと思います。
(1)中国政府が、インフレ懸念から金融引締め方向に舵を切ったことで調整している中国株式については回復基調にあるとの見方が優勢です。
(2)最初に、中国政府が預金準備率の引下げの方向で検討しており、これまでの引締めスタンスから景気刺激側へと転換するという観測が主流になりつつあることが背景にあります。
(3)また、中国の消費税にあたる増値税や営業税の減税が一部施行されたことで、当局の景気刺激対策への期待が膨らんでいます。
(4)不動産の価格下落は、バブル崩壊との連想につながり、一般的にはマイナス材料とみなされるものの、高すぎる不動産の価格調整は、中産階級の不動産取得を後押しする効果もあり、景気にプラスの側面が大きいと考えられています。
(5)欧州債務危機により、中国株式も下落しているため、内需関連株式を中心に割安となっているため、株式に押し目買いを入れやすい環境となっています。
まとめると、以上のような考え方で、上海に拠点を構える中国関連の株式ロングショートファンドの多くが、9月末以降買持ちの割合を増やしてきているようです。
筆者の見る限り、上述の(2)、(3)の要因により、目先投資家意欲が若干回復しているようですが、(4)、(5)については懐疑的な向きも多く、買持ちにポジションを傾け始めているヘッジファンド運用者の意見に単純に与することはできませんでした。街中を歩き、地元の人々と話していると、日常用品は1年で10%程度は値上がりしており、政府の発表した10月のCPI(消費者物価指数)が5.5%の大幅鈍化しているのとは感覚的に乖離があるようです。内陸部から沿岸部、あるいは地方から大都市への人口移動がもたらす中産階級の増加が堅調な内需を作り出している状況に変化は見られないものの、全体としての成長率にはインフレが影を落としているのは確実です。また、不動産価格の下落や欧州債務危機などの内外リスクを抱えている中で、運用者が楽観主義的な見方に偏っている点も気になります。
好調な経済活動、規制緩和、新規ビジネスの発展を肌で感じた結果、当面の間中国経済は底堅いと考えることは妥当です。しかし、中国市場が徐々にグローバル化していく中、外部環境に影響されやすくなっていることや、不動産をはじめとする潜在的なリスク要因が積み上がっていることもまた確かなようです。今後自国経済に頼れない日本人としては、巨大な中国市場の状況を確りと把握し、活用する必要がますます高まっていると思います。