第143回 < アジア出張報告 (2) >

今回、香港で開催されたヘッジファンドのグローバル会議で気になった点は、ヘッジファンド投資家の顔ぶれの変化が顕著になってきた点です。1990年代後半から2008年にかけては、欧州系の金融機関関連、欧州、米国の富裕層個人を顧客に持つ米国ファンド・オブ・ファンズ、一部ファミリーオフィスと大手年金基金というのがヘッジファンド投資の常連であり、会議への参加も金融機関の担当者、ファンド・オブ・ファンズ運用者、稀に基金の運用担当者が参加するというのが一般的でした。

しかし、最近では、まず、各国年金基金担当者のスピーチやパネルが増えてきたことが顕著です。また、ファミリーオフィスの運用担当者は、かつては表に出てこないものでしたが、最近では、積極的に会議に参加する姿を見るようになりました。一方で、大手金融機関の担当者は、投資担当者の姿は減り、ファンドを紹介する業者としての姿が中心となりました。

このような会議への出席者の変化は、ヘッジファンド業界がここ数年で変わりつつあることの一つの表れでもあるように思われます。このような投資家の変化は、ヘッジファンド投資の一般化、業界自体の機関化を促すと考えています。資金量が大きく、業界への影響も増している年金基金や政府系ファンドがヘッジファンドへ投資を行うことで、これらの投資家が「標準化」した質を投資対象であるヘッジファンドに対して求めることになります。結果として、一部の富裕者層資金に支えられてきた多種多様なヘッジファンド運用者や戦略よりも、大規模で安定的な組織を擁する運用戦略が主流になりつつあります。

いみじくも、今回の会議で話題にのぼったのは、アジアに現存する運用会社のうち、8割は独立系で15億円未満の資産運用を行う会社ということでした。運用会社を運営している経験からすると、いかに少人数で運用が可能とはいえ、50億円以上の規模がなければ、時とともに、存続すること自体が相当難しくなると思います。新陳代謝が活発な業界といえばそれまでですが、参入障壁が低くなっている中、投資家の性格の変化などもあり、投資運用会社の規模の二極化が顕著になっているようです。

この大規模化の流れは、一見、市場のニッチに収益機会を狙い、機動的な運用戦略をとることで、絶対的収益をあげることを目標とする「ヘッジファンド」の定義と整合していないようにも見えます。どれだけ多くの運用会社が、大規模な組織下で、このニッチかつ機動的な投資を行い、かつ、収益をあげ続けることができるでしょうか。また、あまりにも小さな運用会社では、従業員の質や投資対象に制約が生じることも考えられます。

このように変わりつつあるヘッジファンド業界のなかで、組織の安定性と独特の収益機会を取ることの出来る体勢というバランスを探し続けるという点については、私どものようなヘッジファンドに対する投資を行う者のスタンスは変わりませんが、対象となる運用者の競争はますます激しさを増しています。