第123回 < 国内総合取引所の可能性 (1) >
ヘッジファンド関連の業界団体である、AIMA(オルタナティブ・インベストメンツ・マネジメント・アソシエーション、http://www.aima.org/)の日本支部を2001年に立ち上げて以来、投資家の皆様に対し、ヘッジファンド戦略や仕組みに関する解説を行うと同時に、規制当局との意見交換や、制度の内容やその変更について協会会員への説明といった活動を行っています。
現在、金融庁、経済産業省、農林水産省といった関係省庁が、国の成長戦略の一環として提起されている総合取引所の創設の是非をめぐり、「総合的な取引所検討チーム」を設置して業界関係者からのヒアリングを行っています。今回、AIMA JAPANとして、第3回の検討チームに参加し、関係者として意見を交換する場に出席する機会がありました。第2回の内容はこちら(http://www.fsa.go.jp/news/22/sonota/20101028-1.html)
本件、ヘッジファンドに関する直接の規制ではありませんが、創設されれば運用会社の取引を通じて影響を受けることになります。AIMA JAPANとしても、このような総合取引所創設は重大な関心事です。
例えば、われわれが投資対象としているヘッジファンドは、多くの取引市場で活動を行い、日本では金融庁が管轄している東京証券取引所(東証)や大阪証券取引所(大証)に上場されている金融商品のみならず、経済産業省や農林水産省が管轄している東京工業品取引所(東工取)や東京穀物商品取引所(東穀取)に上場されている商品先物でも投資をする可能性があります。実際、株式関連のヘッジファンドは、東証や大証での取引を活発に行っています。これは、言うまでもなく、世界2番目の株式時価総額を保有する東証に上場している株式の取引があるためです。現物株式と相応する形で、ヘッジ目的や収益目的を絡めて大証に上場されているインデックス先物やオプションも取引されることになります。国内個人投資家や機関投資家を含めて、多くの参加者が潤沢な流動性を供給しているため、海外の参加者やヘッジファンド運用会社も安心して取引を行うことが出来ます。
一方、近年資産規模を増加させ、その存在感を増しているCTAは、金融先物と同時に商品先物を取引します。日本国内の商品先物取引は前述の東工取と東穀取を中心に行われます。その東工取は、商品先物の出来高で2003年にはニューヨーク商業取引所(NYMEX)に続く世界第2位の位置につけていたのですが、2009年には中国、シカゴ、ロンドン、インドの後塵を拝し、世界11位とベストテンから漏れてしまう結果となりました。この過程で、他の取引所では中国を中心として国内投資家の取引が牽引する形で商品取引量が増加しました。しかし、世界で「商品」が投資対象として脚光を浴びる中、東工取の出来高が減少するという逆転現象が起こってきました。欧米拠点が中心のヘッジファンド運用者や投資家の観点からすれば、ただでさえ日本の取引所は海外市場で、規制、税制面、言語の違いからコストがかかる上、肝心の取引量が減少し流動性のリスクが生じるような市場では取引を控えて当然です。結果、市場参加者の減少から収益性が損なわれて業者が撤退する、という取引量の減少のスパイラルに陥っています。
過去5年間ほど特に顕著に見られる上述の商品取引所の問題について、政府が腰を上げて対応しているのが、今回の「総合的な取引所検討チーム」発足と、次期通常国会での可決を目指している総合取引所創設です。自動車の材料にも使用される「白金(プラチナ)」や「ゴム」等、日本の取引所価格が指標になるような銘柄が存在する中、世界の中で日本のプレゼンスを維持する意味でも、また、業界活性化により経済的効果を期待する意味でも既存取引所の統廃合を前提とした総合取引所創設は日本の金融市場や投資家にとってメリットの大きなプロジェクトだと思います。しかし、既存取引所によって異なる省庁の管轄が弊害となっていたり、取引所自身を含めた業界関係者が実施に消極的な部分があるなど、実行には高いハードルが控えています。
今回の問題は、経済規模の縮小、事業意欲の後退、世界の中での日本のプレゼンス低下等の現在の日本が色々な分野で抱えている問題の縮図という側面があります。このような課題に対して政府、民間がどのように対処していくか、市場に関わる立場として、緊張感と責任感を持って少しでも関わっていければと考えています。