第369回 < 倒産(デフォルト)確率について >
コロナ禍が企業業績に直接影響を与え始めた昨年の5月ごろ、星野リゾートが自社の「倒産確率」を社員向けに発表し、会社の危機感を共有したというニュースを目にしました。当時、38.5%という衝撃的な数値を目にして、社員の方々はビックリしたのではないかと思ったのを記憶しています。その後、2020年8月には「星野リゾートの独自の倒産確率」は18.3%まで下がったとのことで、数値の変動が激しい印象を受けました。
倒産(デフォルト)確率という言葉は、融資業務を本業とする銀行の信用リスク管理上、よく使われています。日本銀行のレポートなどをみると、デフォルト確率を「債務者が将来の一定期間にデフォルトする可能性」と定義しています。デフォルト確率を算出する方法は複数あり、【1】格付けデータを用いて推定する方法、【2】個別企業の財務データを利用して推定する方法、【3】株式を資産価値のコール・オプションとみなしオプション価格式を用いて推定する方法が代表的です。
星野リゾートは、上述の【2】の方法を簡便的に行ったのではないかと思われますが、数値が38.5%という大きなものになることや、急激に上下するということは実際には考えられないので、かなりバイアスのかかった算出方法を作って刺激的な数値を出したのではないかと思われます。実際には、前述の【2】の方法で算出されるデフォルト確率は、売上が前の期に比べて50%以上減収となった会社であっても、業種によるものの5%程度で収まるのが通常です。もっとも、実際の倒産確率の算出方法は一般には理解しにくいものです。
直感的には、全企業数に占める倒産した企業の割合を、「倒産(デフォルト)率」と考えるのがしっくりくる考え方ではないでしょうか。しかし、これは信用リスク計算上、専門的には「実績デフォルト率」と定義され、これまで述べてきた、「デフォルト確率」とは区別されています。つまり、「実績デフォルト率」は文字通り、過去の倒産した企業数を、比較する母集団となる企業数で除した実績値で表される一方、「デフォルト確率」は、前述の各手法を用いて、倒産する可能性、あるいは倒産の期待値を数値化したものになります。
コロナ禍の影響が出始めた2020年以降、実績デフォルト率は低下傾向にあります。コロナによる影響での倒産は徐々に増加しているものの、政府による支援策や金融機関の支援的な融資姿勢の影響によって、本来は倒産してもおかしくなかった企業が存続していることが主な理由と考えられます。また、今後の倒産の可能性を推計する「デフォルト確率」も、格付が安定的に推移しており、カネ余りの影響もあり株価が安定しているなどの要因から、実際には大きな変化が見られないどころか、改善傾向さえ見られます。
一方、最近、2008年の金融危機時に活躍した、不良債権ファンドからの問い合わせを受けることが増えました。グローバル、あるいは日本での不良債権の増加を予見して、これらのファンドが資金を募集し、投資機会に備えているようです。数値で見る「デフォルト確率」からは、まだ、これらの予兆を感じることはできませんが、先見性のある経営者や、経験に富んだ投資家は違った情景を見ているのかもしれません。今後の状況を注視していきたいと思います。