第382回 < 今後の自動車業界の変容と投資機会について >
この数年の間に、投資テーマとしてMaaS(Mobility as a Service)に代表される自動車ビジネスのモデル転換が取り上げられることが増えました。新しい輸送のモビリティ開発、自動運転のみならず、新しい交通インフラやスマートシティの開発構想などがビジネスのテーマとして見られるようになりました。これは、「移動をサービスとして提供する」ビジネス全体を見据えたもので、都市開発を含めて数多くの要素が含まれています。
一方、移動という大きなテーマを少し狭めて、将来の自動車の在り方に絞ってみると、Connected(接続性)、Autonomous(自動運転)、Sharing(共有)、Electric(電動化)の4つのキーワードを略したCASEという言葉に代表される変化が想定されています。これは、自動車がリアルタイムでインターネットと接続することで、走行中のデータの送受信が可能になり、人間の操作を必要としない自動走行が可能になる状況が、地球環境にやさしい電気自動車を必要な時だけ借り、あるいは複数の人が共同所有するという世界観になります。
グローバル市場を見てみると、電気自動車の分野が大きく拡大しており、中国、欧州、アメリカで市場の覇権争いが行われています。当初、環境に対する意識の高い欧州での導入が進みましたが、人口に勝る中国、米国での導入数が拡大し、現在では電気自動車の分野は中国が先行しているようです。特に中国は、人口増加と中流階級の拡大があいまって、米国を凌ぐ自動車社会となったことから、新しいクルマ社会に適応するためのインフラ整備が急務となっています。
配車サービス大手で、今年6月に米国上場を果たした後、中国政府の取り締まり対象となって短期に上場廃止の手続きに追い込まれた滴滴(ディディ)ですが、一時7兆円の時価総額を実現したことからわかるように、中国はこの分野でも巨大な市場を形成しています。さらに今後は、ロボタクシー、カーシェア、電動キックスクーターなどのマイクロモビリティ等の分野のビジネスが拡大されることが想定されています。
新しい自動車業界の中で、今後5-7年の間に3兆円を超える産業になるといわれているのが、自動車の安全性を担うLiDAR(Light Detection And Ranging 光による検知と測距)とRADAR(Radio Detection and Ranging電波による検知と測距)技術の市場といわれています。前者は、光を利用したリモートセンシング技術で、空間内の対象物の正確な位置や形状を検知できるもので、市街地における自動運転には必要不可欠な技術と言われています。後者は電波を利用する探知方法で、利用の目的はLiDARと同様です。
様々なベンチャー企業が鎬を削る自動車業界ですが、自動運転などの未来を支えるレーザーなどの要素技術の開発や、電気自動車に必要なリチウム、コバルト、ニッケルなどの物資の確保、交通インフラの開発など、未来の自動車社会をめぐるエコシステムは新しいモノに満ちているように思います。私たちは、来る新しい社会がより良いものになることを願いながら、これらの技術や会社への投資に関わっていきたいと考えています。