第405回 < プライベート・クレジットという資産クラス >
ここ数年、国内外の大手機関投資家と言われる皆様と話していると、「プライベート・クレジット」への投資割合を増やしている、というコメントを耳にすることが多くあります。一般的に、上場株式に対しての非上場株式という金融資産には馴染みがあっても、「社債」などに代表される「クレジット」という資産クラスを含む債券については、パブリックとプライベートの区別が付きにくいかもしれません。例えば、日本においては、債券の売買において取引所を経由する取引所取引と、証券会社などと投資家が直接取引を行う店頭取引が存在しますが、日本においては上場して取引されているのは国債とプロ向け市場での一部銘柄であり、ほとんどの取引は店頭取引で行われています。しかし、金融資産としてのクレジットは、この区別をもってパブリックとプライベートを分かれているわけではありません。
募集形態としてはどうでしょうか。債券は、発行体が国、地方自治体、企業等に分かれますが、広く一般を対象に投資を募集する「公募(パブリック)」か、投資家数を限定する、もしくは投資家を適格機関投資家に限定して募集を行う「私募(プラベート)」かによっても分かれます。プライベート・クレジットとは、非公開で発行、募集されつつ、さらに一般的に流通市場では取引されないクレジット金融商品ということになります。パブリック・クレジットの具体例としては、格付け会社によって格付けがなされた社債や、米国等の政府系機関の保証が付いたモーゲージ債、資産担保付証券等で二次流通取引があるものです。一方、プライベート・クレジットの具体例としては、企業向けのダイレクト・レンディングや商業用不動産融資などが含まれます。また、バイアウトファンドが企業買収時にレバレッジを活用するためのLBO(レバッレジド・バイアウト・ファイナンス)や、ベンチャー企業への貸出(ローン)に出資する投資家もおり、これらを総称してプライベート・クレジットと呼称しています。
近年、特に2015年以降プライベート・クレジット市場の成長が著しく、グローバルでは、プライベート・クレジットの運用を行うファンドによって、最近では年間2,000億ドル(26兆円)を超す資金調達が行われていると言われています。このようなトレンドは、プライベート・クレジットが流動性のある社債等のクレジット商品に比べて、過去10年以上にわたってコンスタントに高いリターンを記録してきたことに起因しています。日本においても機関投資家資金が株式投資よりも比較的安全で、定期的な利回りを提供するクレジット投資を増やすことは合理的な選択と思われます。したがって、このトレンドは今後も継続するものと考えています。
しかし、プライベート・クレジットは先ほど列挙した具体例以外にも数多くの投資対象が存在し、その中にはリスクの高い投資も含まれています。年利回りが支払われる債券あるいは債権への投資だからと言って、内包されているリスクを精査できない場合は大きな損失を蒙る可能性があることは、2008年のサブプライムローン問題を思い出せば当然のことと思われます。米国を起点として拡大を続けるプライベート・クレジットは日本でも資産クラスとしてのプレゼンスを増しています。私どももプライベート資産を扱う運用会社として、この分野のリサーチを続けていきたいと考えています。