第306回 < 中央銀行の独立性と金融政策のあり方 >
最近、日本における金融政策のあり方についての議論をよく耳にします。米国での金融政策正常化や、欧州の量的緩和の縮小(テーパリング)が見えてくる中、日本の金融政策正常化の遅れが目立つせいかもしれません。また、景気回復が踊り場に差し掛かるように感じる中、非常時の金融政策の副作用について、市場や当局が警戒してきていることも一因と思われます。
景気好調な米国の利上げが続く中、ECBは今年10月以降で量的緩和を縮小し、12月末には資産買入れプログラムを終了する方針を発表しています。もっとも、ECBは金利については当面、現在の水準を維持する方針で、市場でも2019年後半までは政策金利(中央銀行の預金金利)が現在のマイナス0.4%が維持されると予想されています。一方、日銀においては2013年以降、強烈な量的・質的金融緩和を続けているものの、目標である消費者物価指数2%の伸び(インフレターゲット)の達成が遅れ、また、現在のところ達成時期の目処が立っておらず、FEDやECBと違い金融緩和の縮小や利上げには踏み込めない状況です。
日本は世界に先駆けてデフレを経験し、1990年代後半には既に翌日物コールレートが0%近辺にあったための苦肉の策として2001年に量的緩和を実施しました。その後2008年の金融危機を経て、各国が量的緩和を積極的に進める中、日本は2013年に黒田総裁の就任にあわせて長期金利の抑制や株式市場での資産買取プログラムなど、非伝統的なアプローチを展開してきました。2016年9月から始まった「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を実質的なテーパリングであると見るむきもありますが、大規模緩和は続いており、例えば国債残高における日銀保有の割合も純増しており、現在は約44%となっています。
景気刺激的な非伝統的な金融政策は、政府の方針とも平仄があっており、二人三脚での政策運営が続いています。一方、低金利の長期化に伴う副作用が目立ってくると金融が不安定になるリスクが高まります。金融が不安定になる要因として、民間金融機関におけるレバレッジの高まり、高利回りの追及から来る非流動性資産や低品質の金融商品への投資増加や、貸出し審査基準の質の低下(モラルハザード)が考えられます。
中央銀行が政府から独立して運営する必要があるのは、政府が完全雇用や景気拡大を志向することでインフレ的な政策をとりやすい一方、物価の安定を目的とする中央銀行が必ずしも同一の方向性をとらない可能性があるためです。したがって、現在のようにインフレターゲット2%の達成を目指して政府と日本銀行が協力しているときには政府と中央銀行の意見が衝突する理由はあまり考えられません。しかし、前述のように現在の非伝統的な金融政策が引き起こす副作用に対して、お互いがどのように予防し、対処するかは手探りの状況にあると感じます。
非伝統的で緩和的な金融政策後の転換点に起きる混乱をどのように予防し、抑止することができるのでしょうか。2008年の金融危機時、金融先進国の米国においても多くの対応策が後手に回り、また場当たり的な対応も見られたことで混乱が大きくなりました。その後の教訓から実施されてきた自己資本強化、流動性の維持、ストレステストの実施は本来、地銀に代表される金融機関の健全性を増し、有事のリスク耐性を引き上げる作用を持つはずです。しかし、極端な低金利下では、ただでさえ厳しい地銀の収益性を更に抑制する要因ともなっています。中央銀行としてどのような金融政策をとるべきなのか、インフレターゲットを達成したとしても日銀は政府との蜜月期間の終わりを控えて極めて難しい局面を経験することが予想されます。