第291回 < 今投資家が考えるべきこと -日本財政の国債依存度について- >
足下、国内外の株式市場の活況が続き、投資家マインドの改善が続いています。一方で、利回りの高い魅力的な投資案件が限定的であることから、投資のハードルが比較的低くレバレッジもかけやすい一部の投資対象にも資金が流れ込んでいます。極端な一例はビットコイン等の仮想通貨ですが、証拠金を使い高いレバレッジをかけられるFX投資、信用取引によるトレーディング目的の株式売買も堅調です。また、低金利を追い風にレバレッジをかけたアパート、マンション等の不動産投資や節税効果も見込める太陽光設備、航空機、船舶などのリース資産への投資も引続き人気のようです。
このような好調な投資環境下、悪いシナリオを思い描くことは想像力の限界もあり困難です。実際に、過去の金融危機などのイベントを事前に正確に想像することは不可能だったと思います。また過去数年は英国のEU離脱問題やトランプ大統領就任など、投資家がリスクに身構えたイベントをこなして相場が堅調であるため、保守的な投資姿勢が裏目に出る期間が長かったことから、景気の転換点に備えるのが難しい一面もあります。しかし、私たちが過去の投資から学んでいることは、市場は必ず行き過ぎることがあり、その修正局面が存在するということです。
今回以降のコラムでは、市場に存在するリスクの原因になりえる事象を取り上げ、その問題点について考えたいと思います。最初は、日本の債務についてです。この議論もあまりにも長い間取り上げられており、問題として存在することは知っていても、あまりにも大きすぎるテーマでもあることから、意外に正しい状況を把握できていない投資家も多いと思われます。
財務省の公表データを見てみると、平成29年度の政府の一般会計予算は約97.5兆円となっていますが、歳入のうち税収は約58兆円で実に約3分の1は国債、地方債などの公債によって賄われています。単年でもこのような状況ですから、累積残高を見てみると今年度末の見込みで約865兆円となっています。財務省資料によれば、国民一人当たり約688万円、4人家族で約2,752万円の借金を背負っているという説明です。昭和45年には約3兆円、平成元年には約161兆円であった公債残高は近年激増しています。最近の急増を支えているのは日本銀行による引受けで、直近の日銀による国債保有が約444兆円となっており、その購買力を支えているのは、約470兆円にのぼる日銀の当座預金と発行銀行券です。
公債による政府債務の膨らみにより、前述の約97.5兆円の29年度歳入のうち国債の利払いと元本返済が約23.5兆円、年々負担が増加する社会保障費が約32.5兆円、地方交付が約15.6兆円と全体の7割を占めており、教育や防衛の予算を大きく圧迫しています。今年度企業収益の上振れとともに税収は増加していますが、財政赤字が続いています。国は、当初2025年度を目標としていた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を2027年度目標と後ろ倒しにしましたが、それでもかなり楽観的なシナリオにたった目標であるため、簡単に達成できるとは思えず、公債発行に頼る状況が続きます。現在42%となった日銀による国債保有が2018年度末には過半を超える可能性があり、仮にこれまでのペースで日銀が国債を買い上げれば、2025年度前には日銀が日本国債の大半を保有する、持続可能な状態とはいえない状況に陥ります。
基礎的財政収支の計算から除外されているとはいえ、実質的に負担の大きい公債の利払い負担を抑制するため、政府は金利を低位安定させるためにあらゆる手段を講じることになりますが、かなり綱渡り的な金融政策が求められることになると想定されます。また、仮に政府の試みが最高の効果を発揮し、インフレターゲットを達成しつつも金利抑制が継続された場合でも、日本の金融機関の利鞘の改善は見込めず、銀行や信用金庫等の経営は厳しさを増すものと思われ、ビジネスモデルの転換や統合が求められることになります。逆に、政府の試みがうまく働かず、GDP成長を伴わない意図せざる金利上昇が発生した場合は、不動産価格をはじめ、現在高値圏にある金融資産の価格の大幅な修正が起こり、逆資産効果による景気低迷が想定されます。
次回以降でも、今投資家が注視すべき事象について、海外情勢も交えて考えてみたいと思います。