第267回 < 2017年ヘッジファンド投資環境予想 >

2017年、初回のコラムになります。本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。今年が皆様にとって素晴らしい1年になりますよう、心より祈念申し上げます。

昨年は申(サル)年ということもあり、市場の騒動を想定していました。英国のEU離脱や米国選挙の予想外の結果など、政治的には様々な波乱はありましたが、市場はそれらの要因をこなして、堅調といってよい一年だったかと思います。今回も昨年を振り返りつつ、2017年の予想を行ってみます。

【1】 昨年、クレジット市場の波乱が市場ボラティリティ上昇の一因となり、クレジット関連戦略ではマイナス5%を下回るリターンを想定しました。実際には、米国のクレジット市場は好調に推移し、関連戦略も軒並みプラス5%を上回るリターンを記録しました。今年も、トランプ政権発足に伴い、市場参加者もある程度の不安をもって市場に臨んではいるものの、米国景気が堅調であることから、落ち着いた出だしとなっています。企業の大型の借り換えサイクルの到来によって、若干の上下動はあるものの、今年もクレジット起因の波乱は起こらないと想定し、同戦略でプラス5%程度の着地を考えます。

【2】 商品市場については、昨年の原油市場の見通しを20ドル~55ドルのレンジとしました。レンジは、ほぼ想定の範囲に収まりましたが、年末にかけてはレンジの上限を試す展開となっていた点、昨年の想定とは逆でした。本年についても、レンジは切り上がるものの、35ドル~65ドルと、やや上値の重い展開が続くものと考えています。たとえば、産油国の減産などのニュースで原油価格が上振れる場合、シェールオイル増産、再生可能エネルギーのコスト低下などの材料に上値を抑えられることになり、昨年同様レンジを大きく越える展開が想定しにくい状況です。

【3】 イールドカーブについては、2016年の米国金利は、想定どおりの展開となりました。昨年12月の米国金利引き上げにみられるように、一部で金利の正常化は進みましたが、かなりゆっくりとした展開です。今年は、米国で年2~3回程度の利上げを想定していますが、50bps~75bpsの利上げにより10年国債で3.0%~3.5%の着地となり、カーブ形状にも大きな変化は見られないと思われます。一方、日本では、年末にかけて金利のボラティリティが急上昇する局面が訪れるものと想定します。

【4】 エマージング市場について、想定したような波乱はあまり見られませんでした。中国市場も軟調ではありましたが、コモディティ市場が想定以上に底堅い動きをしたことや、習近平政権の安定と、クレジット市場が安定した動きとなったことから、昨年不安視された不良債権問題の顕在化が見られませんでした。今年も潜在的な不動産市場のバブル崩壊の不安は残るものの、問題の顕在化には時間を要することから、市場がクラッシュするような大きな波乱はないものと考えられます。ブラジル、ロシアなどのコモディティと連動する市場での株式上昇は急激なものがありましたが、今年は年前半にはトレンドが続くものの、後半息切れするものと考えています。

【5】 昨年の市場ボラティリティについての想定は完全に誤ったものになりました。今年は、日、米、欧における金融政策の偏りが顕著になる年末にかけて、ボラティリティ上昇の可能性はあると考えていますが、VIXで15-20程度に収まる程度と考えられます。

【6】 昨年の日本株の騰落率については、ほぼゼロを想定しており、こちらは想定どおりとなりました。先進国では米国の一人勝ちとなりましたが、エマージング市場はブラジル、ロシア等、コモディティと連動する市場が大幅に上昇しました。日本株については、今年はあまり楽観視していません。年末にかけて日本の金融政策の限界が顕在化するにしたがって、意図せざる金利上昇を経験する可能性があり、その際、株式市場にもインパクトがあると考えています。年末株価は日経平均で16,000円程度でしょうか。

【7】 ヘッジファンドは、インデックスで見ると、一部の戦略インデックスが米国株式市場を上回りました。ここ数年は、ほとんどの戦略が株式市場に勝てない状況であったことに比べると、パフォーマンスは改善しているといってよいと思われます。投資家が多少ヘッジファンドを見直す状況になってきたかもしれません。

昨年まで、比較的長期にわたって米国株式中心に堅調な地合いが続いてきたことから、市場全般に対して警戒心を持っている投資家も増えているように感じています。過去には、キャリー取引の増加、レバレッジの増加、低流動性資産に対する投資の増加が同時に観測されると、数年内に市場のクラッシュが起きる傾向がありました。今年がその年に当たるとは言えませんが、警戒感をもって投資にあたる必要性を感じています。

本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。