第244回 < 今回の市場下落局面での対応 >
2006年から始めた年初の投資環境予想ですが、振り返ってみると最近は、大きな市場変化を想定しなくなっていることに気が付きます。市場のボラティリティが低い時期が続いたことから考えれば妥当ですが、今年は申年ということもあり、市場が少し騒がしい動きをするのではないかと考えています。昨年を振り返りつつ、今年の予想を行ってみます。
【1】 昨年、クレジット市場を最もリスクの高い市場になると予想していました。実際、ハイ・イールド債券市場はエネルギー市場の大幅下落の影響も大きく、特に年央以降、大幅にパフォーマンスが悪化しました。昨年12月には、米国のサード・アベニュー・フォーカス・クレジット・ファンドが788百万ドル(約960億円)のファンドの償還を凍結し、実質清算段階に入りました。2007年下旬を彷彿とさせる状況となっています。2016年のクレジット市場についても、あまり楽観的な見通しは持てません。但し、米国SECがこれまで監視を強めてきた分野でもあり、2007年程の過度なレバレッジが見られないことから、大きなクレジット・クランチ(信用収縮)は想定しませんが、幾つかのファンド等で同様のことが起こる中、クレジット・スプレッドがジワリと拡大し、クレジット関連戦略のパフォーマンスも平均してマイナス5%以下のリターンと苦戦するものと考えています。
【2】 商品市場については、昨年の原油市場の見通しを45ドル~65ドルのレンジとしました。実際には、年間を通じて35ドル~60ドルのレンジとなり、特に夏以降は当初想定レンジの下限を割れたレンジでの推移となりました。2016年初は、ドル独歩高の修正が見られ、一旦円高に振れる局面も想定されることから、原油価格の底値が固い展開も考えられますが、需給やリスク市場の動向を勘案し、20ドル~55ドルの幅広いレンジを想定し、年末にかけては再度底値を試す展開もあるかと考えています。
【3】 イールドカーブについては、2015年の米国金利は、想定通り、長期金利は低めに抑えられつつ、短期金利が上昇し、ベアフラット化しました。この傾向は、2016年も続くものと考えています。欧州金利、日本金利については引続き低位で押さえつけられた状態が続いています。2016年も当局は政策を大きく変えるまでには至らないと思います。しかし、欧州については、少しずつ金利が正常化する兆しも見られてくるものと思われます。
【4】 エマージング市場について、中国市場は想定通り大きな崩れは見られませんでした。一方、エマージングインデックスを構成するその他のエマージング国株価は、主に商品市場の下落に連動する形で、大幅に下落しました。2016年については、米国の利上げスピードにもよりますが、商品市況の不安定さにつられて、引き続きボラティリティの高い相場展開を想定します。エマージングインデックスについても、2015年同様、10パーセント以上の下落を想定します。
【5】 市場のボラティリティは、徐々に上昇しています。2015年も特に年央に株価が急落して以降、市場の不安定性が増しています。2016年も、昨年以上に高いボラティリティを想定しています。昨年は米国金利の上昇が一つのきっかけとなっていますが、今年も次回の金利上昇と、クレジット市場のスプレッド拡大がボラティリティ上昇の契機になると考えています。
【6】 昨年の日本株の上昇率を10%程度と予想しましたが、ほぼ想定通りとなりました。2016年については、先進国株式の中では、米国株式は金利上昇と景気減速の程度問題化だと思いますが、クレジット市場の混乱が波及してプラスリターンは期待できず、10%程度の下落は想定しておきたいと思います。欧州株式については、当面金利抑制が続き、財政面でのサポートも期待でき、ユーロ安の影響から企業業績が底堅く推移し、現在のバリュエーションが割安と考えれば、米国よりは期待できそうです。多少のアップサイドを考えます。日本株式は、インバウンド需要の取り込み等を背景に、先進国の中で引き続き好調を保つと思われますが、円高が阻害要因になる可能性があります。ボラティリティは高いと思われますが、年末には現在と同水準程度を想定します。
【7】 ヘッジファンドは、インデックスで見ると、昨年まで5年連続で株式市場に対してあまり大きく勝ち越せずに終わっています。今年については、ファンドの淘汰が進んできたこともあり、一部のクレジット関連戦略を除いては、株式市場対比では好調なパフォーマンスを期待しています。業界の再編や淘汰は粛々と続いており、プライベートエクイティ業界やミューチュアルファンド業界との融合も進んでいます。この流れは2016年も続くと考えています。
今年は市場の動きが激しくなる想定をしています。もっとも、最近では2007年に似たような状況に見えますが、2016年は年間を通じては大規模な信用収縮に至るとは考えていません。ボラティリティが高い状況では、投資家は、ロスカットやリバランス等の短期的な意思決定を迫られるケースが多くなるかもしれません。しかし、経済ファンダメンタルの動き自体は緩慢であることを考えると、市場のタイミングを取って利益を上げるのは極めて難しい市場環境になるかと考えています。
本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。2016年が皆様にとって素晴らしい1年になりますよう、心より祈念申し上げます。