第239 回 < 米国SEC(証券取引委員会)の仕事について >
グローバルに活動するオルタナティブ投資の業界団体であるAIMA(オルタナティブ・インベストメント・マネジメント・アソシエーション)の活動に関わってから、15年近くが経ちました。AIMAは英国を本拠地とする団体ですが、アジア地域では、香港、シンガポール、オーストラリア、日本に拠点を持ち、積極的に活動しています。さらに、先日、米国を拠点として活動するヘッジファンド業界団体のMFA(Managed Fund Association)と協働することを発表するなど、その活動の場を広げています。
この1年くらいで特に感じることは、日本に対する米国の運用者、金融当局者の関心が過去に比べてかなり高くなっていることです。少なくともAIMAでの活動を始めて以降、2000年の前半を除いては、最も頻繁に運用者、当局者のトップレベルの人々が日本を訪れているという印象を持ちます。背景には、米国のアジア外交が対中国偏重だった時期が続いていたのが、米中関係の悪化に伴い、相対的に日本に対する外交を重視せざるを得なくなったという、やや受け身の側面もあります。しかし、アベノミクスによる景気回復や規制緩和の兆しが見られることから、ビジネスチャンスをうかがう人々も増えているように感じます。
その中で、最近、日本の新聞紙面にも名前を見かけるSEC(米国証券取引委員会)との情報交換の場が増えています。先月、日立製作所が南アフリカ与党に対して不適切な支払いを行い、正確な処理を行わなかったとのことで、SECが日立を海外腐敗行為防止法違反として訴追し、日立側が、1,900万ドルの制裁金を支払うという件がニュースになりました。なぜ、米国の委員会がこのような権限を持つのか、不思議に感じましたが、同じように感じた方もいたのではないかと思います。SECは、日本の証券取引等監視委員会と公認会計士・監査審査会の機能を併せ持つ連邦政府の機関で、アメリカ合衆国大統領に任命されるChairman及びCommissionerによって運営されています。世界恐慌以降の証券業界における数多くの不正発覚を受けて、1934年に設立された組織ですが、最近では、エンロン、ワールドコム等の粉飾決算を暴いたことで知られています。
メンバーは、学者、弁護士、会計士、実務経験者等幅広いバックグラウンドと、様々な分野の専門知識を持った人々で構成されています。リーマンショック前までは米国内での活動が圧倒的であったとのことですが、近年はその活動の場を海外に広げているようです。日本などを含む海外当局者や我々のような実務者との情報交換を欠かさず、金融関連規制の在り方などについて米国の規制当局者の立場としての指針を示しているようです。最近では特に、ドット・フランク法に関する規制とガイダンス作成が主要な業務となっていたとのことですが、ようやく終わりが見えてきたため、OTCデリバティブ規制や資産運用業規制について等、各国当局とのすり合わせが不可欠な規制関連についてのコンセンサス作りのため、担当者は勿論、Commissioner達自身が、海外を渡り歩くことが増えているようです。もっとも、SECの国際担当業務の大半がEU(欧州)に関わるもので、日本を含むアジアにおける活動量はこれまで相当低かったとのことです。今年の状況を見ていると、今後は、日本でも彼らの名前を見かける機会が増えるかもしれません。