第337回 < 2020年の投資環境予想 >
2020年最初のコラムとなります。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。本年が皆様にとって素晴らしい一年となりますよう、祈念申し上げます。一昨年、昨年の年初を振り返ると、一昨年は日経平均株価が3万円まで上昇するという強気の予想を掲げている方が多かった一方、実際には最高値が2万5千円に届かないまま、年末にかけての急落相場となりました。昨年は一転、年末年始の状況から慎重なコメントが増えましたが、実際には昨年末にかけて高値近辺での引けとなりました。今年の市場はどのように動くのでしょうか。
【1】 クレジット戦略ですが、2%台の低位で推移している米国の倒産確率は、格付け会社によっては、2020年の後半にかけて3%台を超える予想をしています。昨年は、米国の利下げへの反転による緩和姿勢からクレジット・スプレッドも抑えられていましたが、今年は倒産確率の上昇と長期金利が自然体で徐々に上昇する可能性があることから、スプレッドの拡大を伴いパフォーマンスがマイナス圏になるものと想定されます。年内に、欧州などにおける金融機関の信用リスク問題が発生するなどで、一時的にクレジット・スプレッドが大幅に拡大するタイミングがあるかもしれません。
【2】 商品市場については、年初早々、昨年から懸念されていたイラン情勢が悪化しており、それに伴って原油価格が上昇しています。トランプ大統領による指示で、イラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官が殺害されたとの報道で中東地域での供給懸念が台頭し、WTI原油価格は64ドルまで上昇しました。今後も中東の火種がくすぶる可能性が高く、原油価格は高値圏での推移が想定されます。年内は、55-80ドルのレンジでの推移を想定しますが、状況によっては上値を追う展開も考えられます。地政学リスクの高まりにあわせて、足下上昇してきた金価格も追随し、1500ドルを超えての取引となると思われます。
【3】 金利については、2019年に3回の利下げを行った米国では、足下の経済が堅調であることから長期金利が徐々に上昇し、それに伴ってイールドカーブがスティープニング化すると見る向きが多くあります。一方、地政学リスクが顕在化し、リスク・オフによる米国債買いから、フラットニング化を伴い金利低下すると見る向きもあり、見方は分かれています。個人的には米国金利の上昇は要所でリスク・オフ相場によって上値が抑えられ、結果的には10年債で1.5%から2.5%のレンジ内での推移となると考えています。日本では、イールドカーブコントロールの解除はなく、引き続きゼロ金利近傍での推移が続くと見込んでいます。
【4】 エマージング市場は、米中貿易摩擦が多少落ち着く方向となっていることから、中国株式が持ち直しています。しかし、中国での不良債権問題の火種がくすぶる中、上値も重い展開を想定します。中国以外の国々でインフレが落ち着いていることから、金利上昇が抑えられ、緩和余地があることから経済が安定するという向きもありますが、原油価格の上昇等を背景に、不安定な株価の動きを想定します。
【5】 市場の変動率はVIX指数を見ても一昨年の年末のレベルを超えることなく、2019年を通じて比較的安定した推移となりました。今年もVIXが大幅に振れる状況は限定的と思われますが、地政学的リスクの高まりで40を超えるタイミングが最低1度は起こるものと考えます。米国における大きな相場の崩れが年内に起こる可能性はまだ高くないと思われますが、米国に限らず、金融機関の破綻などに端を発するクレジットの問題が顕在化することがスパイクの原因となるかもしれません。
【6】 最後に、2019年の日本株式市場は比較的健全な状況にある日本企業が多いことからファンダメンタルズは良好でした。株価も市場高値を更新する米国につられる部分もありましたが、堅調な推移となりました。しかし、2020年は不動産関連事業への貸倒引当金の積み増しが、低金利による収益圧迫に喘ぐ日本の金融機関の業績悪化を後押しするなど、マイナス要因が顕在化することで、日本株式市場は振るわない一年となる可能性を考えています。
昨年と同様、キャリー取引の増加(オプションの売り戦略)、レバレッジの増加、低流動性資産に対する投資の増加というトレンドが続いています。国内金融機関の不動産関連の融資による不祥事はスルガ銀行の事例に止まらない可能性があります。買収案件レバレッジローン、海外プロジェクトファイナンスに対する貸出等が急増したことから、ガバナンス不足を原因とする不祥事案件が出てきても不思議ではないと思っています。
2019年の「己亥(つちのと・い)」に続き、2020年は「庚子(かのえ・ね)」となり、干支の組み合わせとしては「相生(そうせい)」となり、金から水が生じるイメージ、新しいことが生まれる年と考えられるそうです。長らく続いた各国の金融緩和による資産価格押し上げ相場に変化が見られる年となるのか、引き続き、投資を行う際の買取価格に注意を払っていきたいと思います。
今年も1年、お付き合いいただきますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。