第174回 < アジアから見た景気動向 >
先日、海外出張先で感じる景況感や出張先の人たちの意見を本コラムでレポートしてほしいというお声を読者の方から頂戴しました。確かに、国内で聞く人々の意見と、海外で聞く意見では、日本経済やグローバル市場への見方に隔たりを感じることがあります。どちらが正しいということでもないのですが、人々の見方は、現地の景況感の方向性に左右される傾向があります。例えば、先日出張した香港、シンガポールでは、中国における新政権誕生後の中国景気の回復期待と旧正月前ということから、消費関係が伸びるという期待感などが強く、現地経済のみならず、グローバル市場に対しても全体的に先行きの景況感に関しては楽観的な見方が大勢を占めていたように思えます。
日本については、足下の政権交代、円安、株価回復が景気の転換点になるというはっきりした見方やコメントは聞かれなかったものの、そのような「証券会社」等の金融機関からのレポートが増えているのを感じる、というようなニュアンスに止まっている印象です。もともと、日本に対する投資割合があまり大きくない投資家の中には、日本買いを意識する根拠も多くはないという面もあります。景気回復局面や成長局面では、アジアの新興国投資のほうが日本投資よりも圧倒的に収益があがるという過去の経験が多いため、また、現地の人々のホームカントリーバイアスが自国経済の成長ステージの変化とともに年々強まる傾向もあるため、香港、シンガポールでは一部のニッチ分野に投資をする投資家を除いて日本買いという意見はまだあまり聞こえてきませんでした。
シンガポールと香港の景気を比較すると、個人的にはシンガポールのほうがうまく周囲の成長を取り込んでいるという印象を受けています。香港は中国と近いために、中国の景気動向の影響を受けやすい一方、シンガポールはインドや東南アジア諸国の成長をある程度取り込める位置にあるためだと思います。また、最近、シンガポールにおける各種大型の会議の開催を見ることが増えたことや、日本人の人口も増加していることからも、これまで香港の担っていた役割も取り込んでいる感があります。税制を含めた都市としてのインフラ整備に力を入れてきた結果が現れてきています。また、香港は中国本土からの労働者の流入が見られることから、中国語を話す人口がより増えてきている印象です。シンガポールでは英語を母国語とすることで、グローバル企業としても人的なインフラ整備を進めやすい環境にあります。
現地の投資家の見方は、足下の中国の景気回復期待と、東南アジアの経済発展のステージが進んでいること、更には政権交代のあった日本にも僅かながら期待をかけられるという好材料が身近に揃っていることで景気全体について強気でした。一方で、欧州景気に対する見方は厳しく、あまり楽観的な見方は聞かれなかったという印象です。各国で金融政策、規制や外交問題を中心に政府の重要性が増していることから、政治動向に注目する人々も増えています。アジアでは、社債の発行が軒並み増加しており、資金調達に積極的な企業が増えています。成長のサイクルとしては初期の段階という印象を受けているため、当面は強気のモメンタムを継続して良いのかな、と感じる出張となりました。