第131回 < 3月11日から16日にかけてのヘッジファンド動向 >

3月11日(金)の東北地方太平洋沖地震、津波で被災された皆様、ご家族、そして原発問題で日々の生活に影響を受けている皆様に心よりのお見舞いを申し上げます。今回、私どもは大きな地震とそれに続く余震に驚きつつも、無事に日々の生活を行うことができています。一刻も早く被災地の復興が進むようにお祈りするとともに、無用の風評被害を起こさず、買占めに与しないなどの小さなことも含め、少しでも被災地への貢献ができることを考え、続けてまいりたいと思います。

東京のオフィスでも大きな揺れを経験した3月11日の午後2時46分は、英国拠点のディストレスト戦略を行う運用者との面談中でした。欧州におけるディストレストの機会は、1990年代後半の日本と似て、銀行が不良債権を抱え込んでいる状況であり、外部に出てくるまでにはもう少し時間がかかるということです。しかし、2012年以降は欧州企業での1,000億ドル(約8兆円)を超える借換えが控えており、これにギリシャ、アイルランド、ポルトガルに次いで、スペインの格下げなどが重なるとクレジット市場での買い場が訪れるとの見方を示していました。その会話の最中に起きた今回の地震によって、市場は大きく混乱することになりました。

11日の夕方になるまで、状況はほとんど把握できていませんでした。東北地方が震源であったことと、津波が発生したということは断片的な情報として入っていましたが、国内株式市場が終了するまでの14分の間に、持分を売却する以外に合理的な行動を取れた市場参加者はいなかったものと思います。その後、週末を挟んだために、我々は今回の震災がどれほどの規模であったかを知ることになります。ヘッジファンドの運用者であっても震災直後にできた行動は限られていたと思いますが、週末を挟んで、ある程度情報を得た後の月曜日からは、強烈なリスク回避的な動きが見られました。当時の状況を運用者にヒアリングしたところ、株式市場で売り側に立っていたのは、個人投資家と一部の動きの早いヘッジファンドでした。日経平均株価が15日の午後1時に8,227.63円の安値を記録する直前に、日経先物が7,800円をつけたのは、損失確定を行うヘッジファンド運用者や機関投資家による先物ヘッジ取引が中心だったと思われます。今回の局面では、この15日の午後一番が所謂セリング・クライマックスとなりました。

少し時間を遡ると、11日の午後9時に最初の避難勧告が出された福島原発問題が一気に深刻化したのが3月14日の午前11時に起きた水素爆発とともに測定される放射線量が上昇した後でした。15日に原発に関する不安がピークに達するまでの間、多くの個人投資家、ヘッジファンドがリスク軽減措置による持分売却を行いました。結果、市場が下落し、売りが売りを呼ぶ展開となりました。この時点では原発事故による被害についての正しい理解を得るのは誰にとっても難しく、また、展開も早かったため、一部では正常な判断を下せずに、徒に損失を拡大するケースも見られました。特に、オプション売りや一般にキャリートレードといわれる突発的リスクに弱いポジションを保有していた運用者の損失が大きく膨らみました。厳格なリスクガイドラインを設けているファンドでも、14日から15日にかけて、急いで損失を蒙ったポジションを手仕舞いすることで、16日以降の市場回復についていけなかったケースもありました。

海外市場は、日本での動きから若干のラグをもってリスク回避行動が3月16日に見られました。しかし、今回の災害が中長期的にはグローバル経済に影響を及ぼすものの、短期的には影響が限定されるとの見方から、一部の近隣諸国市場を除いては比較的落ち着いた推移となりました。このような中、株式を中心に取引を行う運用者の多くが最近の上昇相場から買い持ちポジションを膨らましていたところで一定の損失を受けることになりました。しかし、株式市場中立型ファンドやトレンドフォロー型のCTA戦略などで一定の影響を受けたところもありましたが、大半のファンドでは16日を境にリターンも改善し、大きな損失もなく、通常の状態に戻ってきている印象です。

今回のように人々の生活に甚大な影響を及ぼす自然災害が市場に与えるインパクトを正確に把握することは容易ではありません。直接の被災者の皆様が持つ思い、生活、地震による家屋倒壊や、その後の津波による実際の被害状況は測り知れません。また、復興への長い道のり、企業活動の休止の影響、10兆円以上といわれる補正予算が今後の日本の財政、経済に与える影響を市場参加者も測りかねている状況です。投資家の間には、株式相場に対する警戒感やインフレ懸念、それに伴う金利上昇リスクを警戒する声が高まっています。このような伝統的資産への懸念から、グローバルではヘッジファンドに対する資金流入が続いています。われわれも、プライベートでは義援金や日々の生活を通じて災害復興に少しでもお役に立てることを考える一方、業務を通じて貢献できることを模索してまいります。