お祭りの手ぬぐいにみる、金融取引におけるマネロンとか本人確認の本当の意味
浅草も5月になると、三社祭に浮つくのが常なのですが、今年もご神体のお神輿は担ぎ手に担がれるのは浅草神社から出る時と戻る時のみで、氏子の町会を渡御するのは車の荷台に乗って、それを氏子たちは眺めるのみ、となりそうです。まぁ、そんな話をしている私は、といえば毎年三社祭ではおっかなくて担ぎませんが、町会神輿や子供神輿が町内を練り歩くのをお手伝いすることに専念しておりまして、そんなですから今年もそんなお役目がなさそうですので、本当にのんびりとしたお祭りになりそうです。
なぜお祭りをするのか?それはもちろん。。。
さて、お祭り、というと担いで町内(や、担ぎたいのでやってきた担ぎ手)みんなで一体感を味わい、お祭りを成功させるというのが「祭り」ごと=「政」、と思いがち、です。ですが、町内会の集会場に行くとみんなが集まり、神輿が並び、集会場で町内の人が集まってはお昼や夕食のお弁当を食べたりお酒を飲んで(って、最近では昼から飲むなんてことはそう無くなりましたが)、ってやっている横に、ひっそりと立っている立て看板が。それは、町内から集まった「寄進」の印の札の数々。お弁当や子供神輿のお菓子などは、町内会の予算から出るものなのですが、みんなが集まって飲んでいるお酒も現物で寄進されたものも当然あり、それ以上にみんなから寄進された「現金」はひとまとめに、町内会の連合会に集められて、最終的には御神体の渡御をさせてくれた神社に寄進される、のです。
最近では町内にあるそこそこ大きい法人さんが減ったり(そのおかげでマンションやホテルが増えて、そうなると、マンションの住人の方の参加も管理組合経由になるのでそんなに期待できません。。。)経営が大変だったりすると法人さんからの寄進が減り、当然商売をしている個人からだって、このインフレとは無縁の下町ですから懐が大変。なかなか目標額というのを達成するのが大変になってくるのです。そのため、我が愛すべきお土産屋のある、浅草神社の宮元町会である我が馬道一丁目町会では、すぐそばの御神体のお神輿の社を見にきた方達が表に出ている町会神輿などにも見にきてくれる、という絶妙な立地を生かして、町会オリジナルの手ぬぐいをお分けすることで寄進額を頑張って上乗せする、という涙ぐましい努力をしているのです。この数年、近所のおじちゃんがなかなか軽やかな口調で町内神輿の見どころを説明しては、最後に折角見にきた記念にどうですか、とお薦めする口上に磨きがかかってなかなかの売上、おっと、寄進への貢献になってきているのです。
ご寄進にはマネロンもKY+TCもない世界だけどその理由は。。。
さて、ご寄進の代わりに手ぬぐいを、というのは確かに記念品というところではいいアイデアなのですが、町会の外の誰ともわからない方からのお心遣い、というところでとても大事にせねば、と思う一方、商売柄、どうしても、この話をすると頭に残ってしょうがないことを今回の #カリスマファンドアドミまたは史上最強のコントローラー見参 のお話にしようと思います。そう、お金が動くときに気にしなければいけないこと、AML と KY+TCの話です。まぁ、このブログでもすでに散々話をしているのですが基礎編ということでちょっと改めて考えてみたいと思います。
今時ですので、手ぬぐいのために寄進して、手に入れた手ぬぐいを私のように東京銭湯巡りのために常にカバンに入れる、なんて方はそうそういないと思いますが、同じように、手に入れた手ぬぐいをヤフオクやメルカリで売却して、寄進した額以上を手にする、ということもないとは思います。もし、手に出来るなら町会で出品して寄進額の上乗せをしますので、できたという方、ぜひ教えてください。って、これがいわゆる裁定取引の考え方ですよね、というのはさておき、としたら、まぁ、手ぬぐいが、パチンコやパチスロのクレジットの代わりに一旦もらえる金の延べ棒だか何かしらのトークンで、それを近所のとある非営利団体と称する人たちが行っている交換所で現金化されるあれのような役割を果たすことはまずないので、手ぬぐいの代わりとしてお預かりした寄進について税務上の贈与税が町会、もしくは最終的な受益者となる浅草神社に課税されるのか?というKY+TCのTの論点にはなれど(とはいえ、最終受益者である宗教法人への寄進ですから無税、なのは想像に難くない話ですが)、決してマネーロンダリングのツールにはなり得ない、ので、お預かりするときに、あなたがどこの誰ですか?本当ですか?身分証明書を見せてください、なんてお願いすることはまずありません。
他方で、さらに現金で回収することなどまず出来ず、むしろお祭りのお手伝いなど時間と体力も拠出するような場合の現金等での寄進の際には町内会名義で領収書を発行しますので、住所と名前を確認しますが、まぁ、町内会の住人ですので、大抵はもううん10年の御付き合いで、人によっては子供の頃からの付き合い、それよりもっと古い家族ぐるみの付き合いがある以上、改めて本人確認をすることはないですし、仮に、三社祭に参加したいから、この町会のマンションに引っ越してきたんです、だから参加したいので寄進させてください、なんて涙がちょちょぎれそうなことを言ってくれる若い人たちについても、大抵は、いきなり町会にくる、というより、そのマンション等のそばにいる町会の御歴々に相談してからきてくれますので、まぁ、どこの誰だよ、なんて確認の裏付けは不要です。当然ですよね。
同様に、我が愛すべきお土産屋でちょうどこの連休のある日、雨がざっと降ったので店先に並んでいる500円のビニール傘が欲しいなんてお客さんが飛び込んできた人たちに、当然に500円と引き換えで傘を渡しますが、そこで本人確認なんて当然しませんし、AMLのためのメディアチェックなんてしません。契約のお話をした記事でも書いた話ですが、書面で何か交わす必要もなく、単にものとお金の交換ですので、それさえ出来れば基本的には何の問題も生じないのです。それにビニール傘がマネロンのツールに使われることなんて、むしろ廃棄される傘の問題が発生する現代を考えれば、当然にない、と言えるでしょう。
AMLもKY+TCも要は金融取引では大事なこと
でも、この記事を読んでいるのは広い意味でお金や投資、言い換えれば払ったお金に対して、将来的に何かしらお金が戻ってくるかもしれない、とかそこそこ巨額の資金を動かすことに携わる人たち、か、それを目指したい人、だと思います。間違っても土産物屋で働きたい、という方がいたら別途私までご連絡いただくとして、その前提で話をするならば、わたしたちがファンドで行うことは、文字通りどれもこれもマネロンやKY+TCを問われるものばかりです。日本の法律 – 犯罪収益移転防止法-で言えば、特定取引、ってやつです。
どういうことかというと、現金がAからBに動く、というのは、Aが問題のある人だと犯罪収益の移転が防止できないことになりますし、Bがその人だと、活動資金の提供がされることになります。なので、銀行さんは、Aのチェックのために口座開設の時に血眼になって問題のある人なのか調べますし、Bのチェックのために、送金ごとに送金先について細かく聞くのです。また、受け取る時にも、どういう目的の送金なのかを聞くことが、特によくわからない海外からの送金の時には増えてきました。
また、投資をするということは、お金の代わりに将来にキャッシュフローを産む何かに置き換える、ということですので、不都合な事情で手に入れた資金を、投資から得られたキャッシュフローにすり替えることが出来る、と見ることが出来るのでこれを資金洗浄、マネーロンダリングの手口の基本的な一つ、と言えます。そのため、特に未上場株式や不動産、私募ファンドなどへの出資をする、その持分を売買する、という時にはその人の本人確認と共に、問題のある人かどうか、そしてその資金がどういう背景で出てくるのか、というテストをどうしてもせざるを得ない、のです。
そもそもなぜ本人確認?
でも、なぜ本人確認が必要で、その人たちの素性を知る必要があって、さらに言えば、税務上の義務とかまで理解する必要があるのでしょう。
まず、偽名取引、というのがいろいろな意味で厄介です。当然に問題のある人たちは自分がリストに乗っているのは知っているわけですので、偽名を使うほうが自然でしょう。なので口座を誰かさんから購入したいし、ダークウェブではビットコイン決済で通帳とセットで偽造本人確認書類の売買も行われるのです。そうでない人にとっても、自分名義でない取引にしておきたい事情はそれぞれです。取引の事実を隠したい、資産隠ししたい、など、今は知りませんが昔ですと温泉場に都会に居られなくなった人たちが旅館の仲居さんをするいわゆる「訳ありな」事情くらいしか名前を隠す他の理由が個人的には思いつかないものの、まぁ、仲居さん以外は大抵の場合、税務的な事情がどうしたってついて回るケースが多いでしょう。まぁ、あと考えられるのは、素性を隠してランドセルを送る「伊達直人」さんについては、上記を思えば方向性は違いますが、自分のキャラや職業の都合上で秘匿性を保ちたかったという意味では同じなのですが、意図も意図ですから、(税務署含めて)ここではもう追いかけないでおきましょう。それこそ、恵まれない施設の子とその子たちの将来への寄贈ですから、贈与税なんてケチなことは言わないのっ。
ということでまっとうな理由で取引をするあなたや私に本人確認が求められて、世界中どこでも問題になる「運転免許やパスポートの写真ってなんであんなに写りが悪いんだろう」ということを耳にすることになるのです。
私じゃない、私が投資する「ビークル」
自然人である私たちは、とはいえ、何もそんなリスクの高い偽名を使わずとも、以前は英連邦ですと nomineeと呼ばれる代理人制度を使って取引することで、取引の表に立つことなく実行することが可能です。また、ファンドや資産管理会社をはじめとする各種法人ビークルも、その人の代わりに取引をすることが可能です。
だから、米国発のあれが始まった
そのため(当然、他もたくさんありますけど)米国の富裕層がケイマン諸島などのビークル経由で米国資産への投資を行うことで、本来直接投資した際に支払うべき税金を外国人のふりをして回避することが増えたことで、FATCAという、ビークルの裏側にいる投資家の素性を米国内国歳入庁(Internal Revenue Service: IRS)に開示できないならば、米国資産由来の収入の30% (これ、いつも書く話ですが、収入であって、超過収益ではないんですよ)の源泉徴収をする義務を、世界中の銀行やカストディ、ブローカーなどに義務付けた、という超わがままな法律を定めたのです。まぁ、それくらい税金が高いから逃げ出したんでしょ、そこからまず考えなさいよ、って思いますが、それはその国の事情だから、まではよかったのですが、この世界中の金融機関を巻き込む法律を施行したものですから、じゃあ、我が国も、なんて英国も英国版 FATCAをはじめ、その他の国もじゃあ、非居住者の税務情報を自動的に交換できる仕組みを作ろう、と言って CRS – Common Reporting Standardをはじめたのです。その後英国は CRSの枠組みに直ぐに参加したのですが、米国はいまだに独自路線を進めるので、今や非居住者だけでなく、海外との取引をする場合も含めて、FATCAとCRSのための自分の税務情報をファンドなどの金融機関に提出し、それとは別に米国資産の取引のある可能性のある場合には それまででも有名だった W8なんちゃらフォームも別途提出することになるのです。
「ビークル」の裏側を知りたいのは、税務だけでなく
最近は、この税務情報の開示問題以外にも、マネロンの都合があるので、裏側の投資家が一体誰なのか、ということを理解する必要が高まりました。考えてみれば、公募される投資信託のように、出資額の多寡はあれ、でも一人の投資家がファンドの判断を左右するほどの出資をすることはほぼないでしょうけど、私募ファンドですと投資家の数の少なさも手伝って、そこそこに影響力を与えることの出来る投資家というのが出てき得るのです。では、その影響力を与えそうな出資割合とはどれくらいなのでしょう。FATF / GAFI – Financial Actions Task Force という世界的なマネーロンダリングに関する金融活動作業部会において、参加国に対して25%を上限に、というと聞こえはいいですが、25%を最低ラインに設定しています。言い換えると、より低い割合まで影響力のある出資割合として見ることも可能、なのです。というのも、10%以上をもつ5名が結託したら過半数を取りにいけるわけですから、10%以上保有する人たちの顔ぶれを確認した方が良さそうにも思えます。ですが、日本では25%に設定されています。なんででしょうね。
なお、この議論では間接的に保有する自然人がターゲットになっています。そのおかげで、透明性が高いとされている上場会社はこの対象外になっています。
全ては多数決で決まる(?)
でも、私募ファンドでも当然投資家の構成比率などから該当なし、というのは起こり得ます。そうなると今度は出資しているからビークルからの受益があるのでビークル管理に影響する、というシナリオから離れて、実際にビークルの運営の最終判断を誰がしているか、言い換えると、誰がこのビークルを実質的に動かしているのか、という質問に辿り着きます。要は、誰がこのビークルの実質的な受益者だからその目的と利益のために動かしているのか、もしくはそのような保有と運営が一体化していないケースではその運営がどの理由で行っているのか、をみている、ということになります。
まぁ、これについて、単純な会社ビークルや無限責任組合のいるような組合スキームですと整理がつきやすいのですが、では、国内ならば一般社団法人や信託の場合は、その指図権や受益権がバラバラに出来るケースになればなるほど複雑ですので理解されにくくなる問題でもあり、いっちゃあなんですが、この4ヶ月以上、この問題に随分付き合わされているものです。
最近の聞かれる内容のトレンドでも
さて、2年前くらいまでは、まぁ、ここらでたいていの AML/KY+TCが終わっていたものです。でも、常に世界は進化します。最近の傾向はさらに深いところにまできます。その資金はどこからきたのか?そのビークルはいかにしてその資金などを継続的に得ることが出来るのか、というお金の出どころに関する質問も問われます。基礎の論点に戻るとそうですよね。一般的な企業や個人であっても、あまり資金のでどころを言いたくないケースというのはあり得ます。為替で大儲けして一世を風靡したミセスワタナベたちは、まさか旦那の給料の一部を流用して儲けた資金でゴージャスな買い物に昼時のお食事をしていた、とは旦那には言えなかったはずなのと一緒です。まぁ、言えない資金はやばい、という前提に立っているので、どうしてもその質問をしてそれをちゃんと答えられないといけない、のですが、最近は単純に「借りてきた」とか、「事業収益」とかではダメで、「某銀行からこれこれの条件で」とか、「主に、怪しい金融系のコンサル事業による収益で」と言って契約書の一部をサンプルで出す必要すら出てきているのです。余計なお世話だ、と思うのですが、聞かなかったことで事実上の資金の抜け道を作ることで、FATFの抜き打ちの査察によって、全然なってないと指摘されるよりはマシ、なのです。
まとめ: もはや逃げられないAML/KY+TC
ということを踏まえていくと、どうやら、「この人は名前を口にするのも憚られるくらいの大事なお客様だから、そんな本人確認とか税務資料の説明とか失礼なので聞いてはいけない。」なんてハリポタの誰かさんを扱うかの如く、よく聞こえてくる言い訳が投資の世界で通用するはずがないのです。本当にその人、あなたの知っているその人ですか?本能寺の変で焼けたあの方って本当にあの方ですか?的な超基本的なKYCを求めるのと同時に、それが第三者に対しても適切な証拠とともに説明できないと問題である、というのが今の世界なのです。そのおかげで、弊社の第3号セカンダリー戦略ファンドを設定するにあたっては、契約書の作成をお願いする弁護士事務所からまずKYCのための資料提出を求められました。その担当弁護士とは既に10年以上お互いに知り合っているにも関わらず、です。そこから始まり、取引をしようという会社さんの全部から「あなたはだあれ?どこからきたの?どこで税金は納めてるの?」という質問ばかりが繰り返されるのです。あ、日本の会社さんは除くです。でも、こんな感じですので、聞かれないのは本当に大丈夫?と心配してしまいます。
という感じで、こうやってみると、この問題って、結局は一方では税務的な問題としての脱法行為や課税権の移転をどう回避するか、という話のための作業であり、また、日本ですと末端から総本山に資金を吸い上げていくという意味では表社会とそう経済構造の変わらない広域ホニャララ団の話がどうしてもメインの話になりがちですが、海外ではテロリスト、問題のある国家、などなどと、西側諸国的発想で好ましくない組織、団体、国の関与、後ここではあまり触れませんでしたがPEPsの関与については、これまた世界的に問題視している賄賂や汚職の問題への関与から離れることを求めている、のです。
さて、ここまでで、数回に分けてファンドの運営をするのに必要な基礎的な話をまずさらってみました。どうでしょう。でも、まだまだ個人的には書き足りないことが多いんです。続きはまた次回以降に掘り進めていきますが、まぁ、こんな金融の話に疲れたら三社祭に来て、お神輿を眺めつつ、来年も無事に開催されるように、我が馬道一丁目町会の手ぬぐいをお求めいただければ、これ幸いです。って書いたらコンプライアンスのチームから募集行為をここでしてはいけない、と言われそうですが、上記の通り、手ぬぐいをセカンダリー市場で再販売しても元手は戻りませんので、二種証券にすら該当しませんから問題ないでしょう。寄進ですから。
お後がよろしいようで。